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北海道経済 連載記事

2016年11月号

第80回 日弁連が「死刑廃止宣言」採択

日本弁護士連合会(日弁連)が初めて、死刑制度を廃止すべきとの方針を打ち出した。犯罪被害者支援活動に関わっている弁護士からは異論も噴出している。今回の法律放談は、死刑廃止をめぐる論議について。(聞き手=本誌編集部)

日弁連は毎年様々な会議や催しを開いていますが、その中で最も規模が大きいものが「人権擁護大会」です。59回目となる今年は10月6〜7日に福井市で開催されました。今年は3つの分科会が開催され、それぞれ宣言が採択されたのですが、その中で最も注目を集めたのが「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」でした。過去の人権大会でも、「死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」などが採択されたことはありますが、死刑を廃止すべきとの姿勢を明確に打ち出すのはこれが初めてです。

もっとも、死刑制度廃止に反対の弁護士もおり、大会前には犯罪被害者支援に取り組む弁護士グループが記者会見を開いて、宣言の採択は「弁護士の思想・良心の自由を侵害している」と反対を表明しました。弁護士会は強制加入団体であり、加入しないと弁護士として活動できないため、宣言に反対だからといって弁護士会を脱会できない、だから弁護士の思想・良心の自由を侵害している、という意味です。大会でも反対派から「犯罪被害者の人権を無視している」といった主張が相次ぎ、表決でも賛成546票に対して反対96票、棄権144票を数えました。人権大会の宣言は全会一致の賛成が原則ですので、今回は異例中の異例です。

もちろんこの採択が国会や内閣を拘束するわけではありません。今後、死刑廃止の機運が高まれば、刑法改正などの法的な手続を経て、死刑が廃止されることになります。日弁連は2020年までに廃止を目指すとしていますが、実現は難しいでしょう。

日本では独特の死生観が影響しているのか、世論はいまのところ「死刑存続」が優勢で、2015年に発表された内閣府実施の世論調査では死刑容認派が80%を占めました。一方、世界では死刑廃止国が主流になっており、先進国でいまも死刑が続いているのは日本と米国(50州のうち30州)、シンガポールと台湾くらいのものです。

私個人は死刑制度は廃止すべきだと考えています。人を殺すという行為自体が悪であることは誰もが知っています。にもかかわらず、国家が人を殺す死刑が認められているのは、凶悪犯罪の犯人を刑務所の中でも長く生かしておけば、被害者が浮かばれない、遺族があまりに気の毒という国民感情が働くためでしょう。しかし、犯人が死刑に処されれば、遺族は心の区切りをつけることができるのでしょうか。現実に犯罪の被害者になったわけではないので、これは想像ですが、死刑によって犯人の命が断たれても被害者が戻ってくるわけではないので、心の区切りはつかないと思います。

現在、死刑に相当すると考えられている凶悪犯罪に対しては、仮釈放の可能性がほとんどない終身刑を新設すべきです。一生、家族や社会とのつながりを持てない苦しみと絶望は、死刑に匹敵するものがあると思いますし、生きて一生償いをするべきです。また、人が人を裁く以上、冤罪の可能性は否定しきれません。実際に袴田事件では裁判で死刑が確定した被告について、再審開始が決定しました。死刑を執行してしまえば、冤罪による被害を償うことができないことも、死刑廃止論の根拠のひとつとなっています。