しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第70回 届いた訴状を無視したら…

北海道経済 連載記事

2016年1月号

第70回 届いた訴状を無視したら…

ある日、身に覚えのない責任を問われて裁判所に訴えられるリスクはどんな人にもある。小林史人弁護士によれば、どんなに理不尽な訴訟でも、無視するのは基本的に得策ではないという。(聞き手=本誌編集部)

最近世間の関心を集めた元兵庫県議の刑事裁判。カラ出張で出張費をだまし取った容疑で在宅起訴された被告人である元県議は、初公判が行われた神戸地裁に姿を見せず、裁判長は早々と公判中止を決定しました。

この元県議は裁判への出頭を確保するため、身柄を取られることになる(留置場や拘置所に連れて行かれ勾留される)可能性があります。刑事裁判は重大な人権侵害である刑罰を科す手続であるので、適正な刑事裁判手続の保障の観点から「欠席裁判」が禁止されていますが、一方で裁判の円滑な進行のために被告人を強制的に出廷させるための手続である「勾引」により、必要に応じて刑事施設に勾留することができると定められているためです。

この点、民事裁判では事情が異なります。「欠席裁判」制度が定められており、被告が送達された訴状を無視して出頭しなければ、原告の主張が裁判所に認められ、全面的に敗訴してしまう恐れがあります。実際、敗訴しても失う財産がない場合、裁判所からの呼び出しに応じず、そのまま敗訴する被告も少なくありません。

民事裁判の被告となった場合、通常、裁判所から「特別送達」という特別な郵便の形態で届く「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」でわかります。何月何日何時に裁判所口頭弁論を開くから出頭するか、それができなければ書面で答弁しなさいという意味の書類です。原告の言い分に承服できなければ、法廷に赴いて、または書面を提出して反論することになります。具体的には、原告が求める金銭の支払いや建物の明け渡し、登記の移転といった「請求の趣旨」の棄却を求め、その根拠となる事実関係(「請求の原因」といいます。)を否認、または「知らない」と主張するわけです。答弁書を提出しておけば、初回期日を欠席してもその内容は法廷で陳述されたものとみなされます(擬制陳述)

反対に被告が出頭せず答弁書も提出しなかった場合には、原告が訴状に書いた請求の原因を被告は認めたものとみなされます(擬制自白)。もっとも、現実離れした訴えでも擬制自白が成立すれば勝訴できるとは限らず、裁判所は原告に対して、請求の原因に記載された事項について最小限の立証を求めます。逆に言えば最小限の立証さえ行われれば、被告が敗訴する可能性が大きくなります。「常識のある裁判官なら原告の理不尽な主張を聞き入れるはずがない」と楽観するのは危険です。

一審で何もせず裁判に負けたとしても、二審で反撃すればいいと考える人がいるかもしれませんが、民事訴訟法第157条は、当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて主張を述べたり、証拠を提出しても、これにより訴訟の完結が遅れると認めたときは、裁判所はこれを却下することができると定めています(時機に後れた攻撃防御方法の却下)。被告が一審で主張しなかったことを二審で主張すれば、やむを得ない理由がないと、この条文を根拠に却下される危険があるわけです。

特別送達された訴状に到底承服できないことが書かれていた場合でも、無視するのは得策ではありません。手遅れにならないよう、弁護士に相談することを強くお勧めします。