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北海道経済 連載記事

2013年4月号

第37回 医療裁判の難しさ

医療が高度化するにつれて、医療ミスの有無を争う裁判が目立つようになっている。患者や家族の怒りは深いが、裁判を起こし、有利な判決を勝ち取るまでにはいくつものハードルが待ち受けている。今回の「法律放談」は医療裁判の現実を取り上げる。(聞き手=北海道経済編集部)

社会が医療に要求するサービス品質の水準が高まっているためか、あるいは技術の高度化と同時にリスクも高まっているためなのか、患者やその家族が「治療がうまくいかなかったのは医療ミスが原因」と考えるケースが増えているように思います。しばしば、新聞やニュースなどで医療ミスをめぐる裁判の判決が報じられ、注目を集めます。

しかし、実際には医療訴訟は提訴までに様々なハードルが待ち受けており、提訴に持ち込めたとしても実質的に勝訴することは容易なことではありません。

難しいのは、まず、裁判所に提出する証拠の収集に、手間と時間、お金がかかるということです。医療ミスがあったことを証明するために最も重要なのは、医療機関に保管されているカルテの記載内容ですが、カルテの写しを証拠として提出する際に、カルテの訳文もつけるのが通常です。ドイツ語ないし英語で記述されたカルテの内容を、医療関係者に依頼して日本語に翻訳してもらうのですが、翻訳料が1ページあたり2万円程度かかります。

さらに、カルテに記載されている医療行為のうち、どの部分が適切でなかったか、通常ならどのような治療を行うべきだったかについて、専門の医師に意見書を書いてもらわなければなりません。意見書の執筆を依頼するにもお金がかかります。

医師の業界も様々なしがらみがあるためか、他の医師の医療ミスを指摘するような意見書を書いてくれる医師はなかなか見つかりません。他の医師から見て「適切な医療行為」との評価なら、当然、勝算はありません。

しかし、患者本人やその家族が「医療ミスがあった」と確信していれば、時間とお金をかけたのに十分な証拠が収集できず、提訴にさえ至らないという現実は容易には受け入れられません。この結果、患者側の不信感が、本来なら味方になるはずの弁護士に向かうことも珍しくありません。

提訴できたとしても、重大な過失が誰の目にも明らかな特殊なケースを除けば、証拠をもとに法廷で医師の不適切な行為を立証し、裁判官に医療ミスがあったと認定させることは困難です。医療行為そのものの過失ではなく、説明義務違反を認定し、裁判費用程度の金額の支払いを医師に命じる判決が言い渡されることもありますが、このような判決が患者側の実質的な「勝訴」と言えるのかは疑問です。

これはあくまで私の印象ですが、医療裁判には300万円の費用と3年の時間がかかり、勝訴的な和解(患者側としては不満が残る和解である場合もある)を含めても「勝率」は3割といったところでしょうか。

このように医療裁判の現実は患者側にとって厳しいものがありますが、旭川地裁の管内でも患者からの依頼に応じて医療裁判を積極的に手掛けている弁護士がいます。また、旭川管内にはいませんが、医師免許を持ち、患者側で医療裁判を手掛けている弁護士もいます。医療ミスをめぐる裁判は専門知識や協力的な医師との人脈が必要であり、豊富な知識と経験の有る弁護士に相談するべきです。また、複数の弁護士に相談し、見込等の内容を比較してみるべきです。