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北海道経済 連載記事

2023年10月号

第163回 保険でまかなう弁護士費用

 「1日98円から入れる保険」。民間の医療保険のコピーのようにも聞こえますが、これはある業者が盛んに宣伝している弁護士保険です。テレビのバラエティ番組に出演し、国会議員にもなったことがある著名な弁護士が宣伝に起用され、加入を勧めています。(聞き手=本誌編集部)

この業者を含め、現在、数社の企業が弁護士保険を販売しています。保険商品の内容や保険料は業者によって異なりますが、基本的には、法的な紛争が起きた際の弁護士費用を負担してくれるしくみです。補償範囲には、災害、交通事故、物損事故などの「偶発事故」と、近所とのトラブル、詐欺、相続、労働などにまつわるトラブル、そして近年話題になることが多いネットやSNSでのトラブルといった「一般事故」が含まれています。被害者となり相手を訴えた場合も、加害者として訴えられた場合も保険が活用できます。

ただ、こうした保険に入れば、すぐに弁護士への依頼ができるわけではありません。健康保険などと同様、契約してからしばらくは利用できないルールがあります。すでに提訴されている場合などに保険が活用されるのを防ぐためです。契約した時点で原因が発生しているトラブルも補償の対象外です。

こうした保険商品が社会に広く普及していけば、裁判にも影響があるでしょう。通常なら勝訴が見込めない無理筋の主張でも、弁護士費用が保険会社から支払われるのなら、「ダメモト」で提訴しようという人が増えるかもしれません。

弁護士業界にとっては、保険で費用面のハードルが下がり、訴訟が増えればそれだけ仕事が増えます。弁護士の増加の一方で事件数は減る一方ですから、これは歓迎すべき動きです。

このような弁護士保険に加入している人はまだそれほど多くないでしょうが、多くの人が利用しているのは、自動車保険の「弁護士費用補償特約」ではないでしょうか。通常の自動車保険の補償に加えて、相手方との交渉や裁判を弁護士に依頼するための費用を保険から支払うしくみです。こうした特約に基づき、一部の損保会社は弁護士会を弁護士紹介の窓口としており、弁護士会で作成した弁護士特約登録リストに基づいて順番に弁護士を紹介し、保険の契約者をサポートしています(弁護士会を介さず、損保会社と個々の弁護士が直接やりとりするケースもあります)。

一方で、弁護士が自らのリスクを軽減するために加入する全国弁護士協同組合連合会の「弁護士賠償責任保険」もあります。弁護士は専門知識を活かして業務に当たっていますが、多額のお金や高価な財産に関わる業務も多く、生身の人間である以上、ミスをゼロにすることはできません。業務上の過誤によって多額の損害賠償責任を負うこともあります。具体的には、勘違いで時効期間を徒過させてしまい、依頼者に損害を与えてしまった時などに、保険金が支払われます。多くの弁護士がこの保険に加入して業務のリスクを抑えています。