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北海道経済 連載記事

2023年9月号

第162回 スクールロイヤーの問題点

弁護士は法廷での弁護だけでなく、多彩な役割を果たしている。今回は学校内の問題解決を支援する「スクールロイヤー」に注目する。(聞き手=本誌編集部)

弁護士は一般的に、自ら法律事務所を設立したり、法律事務所に就職したりして活動しますが、社会との関わり方は、それだけではありません。近年増えているのが地方自治体内の弁護士です。自治体でもコンプライアンスが強く求められていますが、行政の日常的な仕事の中で、個々の職員が法的にどの行動が正しいのか迷う場面もあります。一部の自治体は期限付き職員として弁護士を採用し、こうした場面でアドバイスを求めたり、訴訟に対応するなどしています。道内では唯一、根室市で弁護士が雇われているようですが、本州では珍しくなく、東京都多摩地区の自治体では軒並み弁護士が採用されています。前の市長が弁護士だった兵庫県明石市では、2022年の時点で12人の職員が弁護士でした。

こうした流れにも関連するのが「スクールロイヤー」、学校設置者から委託を受けて学校で起こるいじめや保護者とのトラブル等を弁護士がサポートして解決するしくみです。顧問弁護士(学校設置者が弁護士とトラブル処理について委任契約する)との区別が難しいですが、文部科学省と教育委員会、弁護士会が協力して、問題が発生した学校に弁護士が派遣することが想定されています。文部省が主導するしくみとは別に、東京都港区、大阪府、三重県、岐阜市などで独自のスクールロイヤー制度が導入されています。

ただし、この制度については問題点が2つあります。まず、制度の主な狙いです。文科省や自治体が制度に期待しているのは、トラブル回避や現場の教員の負担軽減だと考えられます。いじめや保護者への対応に学校は苦慮しており、スクールロイヤーに対応してもらうことで、教員の負担を軽減することが期待されているのでしょう。他方、日本弁護士連合会もスクールロイヤー制度について声明を出しており、子どもの最善の利益の実現を重視するのが特徴です。子どもの学習権に配慮しつつ、いじめ問題も解決する立場といえるでしょう。文科省は学校側から、日弁連は子どもの側からスクールロイヤー制度を構築しているといえますが、両者の違いは理念的なものに過ぎません。スクールロイヤー制度は内容があいまいであり、顧問弁護士や学校内弁護士(学校設置者から雇用されて教育活動を行い、トラブル防止のため様々な助言をする弁護士)と現実的な違いはなく、スクールロイヤー制度の存在意義が疑われます。

もうひとつが報酬の問題です。一般的に、弁護士が行政からの相談に応じる際の報酬は1時間2万円程度です。旭川市のいじめ事案について話し合い、昨年9月に調査報告書をまとめたいじめ防止等対策委員会には、旭川弁護士会からも委員を5名出しましたが、市から委員1名に支払われる手当は出席1回7700円でした(当時)。旭川弁護士会ではこの会議の公益性も鑑みて、会の予算から差額を補填していましたが、調査及び調査報告書の作成のために医院の拘束時間が増え、最終的には旭川弁護士会からの補填額が1800万円に達しました。

スクールロイヤー制度の下、弁護士の専門的な知識や能力を活用するのであれば、行政がそれに見合った費用を負担することが必要です。