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北海道経済 連載記事

2023年7月号

第160回 死刑廃止の前に終身刑導入

日本に死刑はあるが、終身刑はない。死刑廃止へのひとつのステップとして、新たに終身刑を導入すべきだとの主張がある。今回はこうした見方に注目する(聞き手=本誌編集部)

先進国のうち、いまも死刑制度があるのは日本、米国、韓国だけです。韓国では長年、死刑執行の実例がなく、米国でも多くの州では死刑が廃止されました。先進国の中で日本が最も死刑廃止に消極的です。

私個人は死刑制度を廃止するべきだと考えています。言うまでもなく生命を奪うことは究極の人権侵害行為であり、刑罰の一種とはいえ、国家が自国民の生命を奪うという究極の人権侵害を行うことを容認することはできません。死刑存続派は被害者や遺族の感情を理由のひとつに挙げますが、犯人が死刑に処されて被害者側の苦しみが軽減されるのか疑問です。むしろ犯人には罪の深さと永遠に向き合わせるべきなのではないでしょうか。

しかし、今のところ世論の大勢は「死刑存続」です。2020年に政府が行った世論調査では8割以上の人が「死刑もやむを得ない」と答えました。

日本弁護士連合会や北海道、東北、関東など地域ごとの「弁護士連合会」、各府県に1つずつ北海道に4つ、東京に3つある「単位会」の多くが死刑に反対する姿勢を示していることから、弁護士の大半は死刑廃止派と考えられがちですが、実際には犯罪被害者を支援する立場から死刑制度を存続すべきと主張する弁護士も多くいます。日弁連が死刑廃止を求める「決議」を総会や全国大会で採択したことはなく、意見や方針を表明する「宣言」を採択するにとどまっています。これは、死刑存続派の存在に配慮した結果でしょう。

死刑廃止に向けた足がかりになる可能性があるのが、死刑と無期刑の間に「終身刑」を設けるとの日弁連の提案です。無期刑は刑期が定められていない懲役で、仮釈放の余地があります。終身刑は、文字通りなら「死ぬまで」の懲役となります。

前記の世論調査では終身刑が導入された場合の死刑のあり方についても設問があり、それでも死刑存続を求める人が52%、死刑を廃止する方が良いと答えた人は35%でした。死刑存続派のほうがまだ多いとはいえ、終身刑導入で死刑廃止には大きく近づけそうです。

無期刑の受刑者の多くが刑務所でまじめに生活しているのは、いつか仮釈放されると期待しているためです。いま国内には約1800人の無期刑の受刑者がいますが、そのうち仮釈放されるのは毎年0・6%と少数で、無期刑がほぼ終身刑として機能しているのが現実なのですが、それでも無期刑の受刑者の多くはわずかな可能性をゼロにしないため、問題を起こさないように生活をしています。最初から仮釈放の可能性がない終身刑では、受刑者が自暴自棄になり、服役中の反省を促すことが難しくなることも予想されます。

このためか、日弁連が提唱する終身刑の構想では、時間経過とともに更生が進めば無期刑への減刑も適用されることになっています。しかしこれでは無期刑と終身刑の違いがあいまいです。終身刑を導入する前に、無期刑がほぼ終身刑となっている現状がどうなのか、よく考える必要がありそうです。