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北海道経済 連載記事

2023年6月号

第159回 和解案は裁判官の心証開示

民事裁判の約3分の1 は和解で終了する。闘志 満々で判決まで裁判を争 うつもりの当事者にとっても、和解案は裁判官の 心証を事前にある程度予 想する上で重要な意味を 持つ。今回の法律放談は 和解に注目する。(聞き手=本誌編集部)

民事裁判は最後に判決が言い渡されて終了するもの、途中で原告と被告が和解して終了するもの、途中で原告が取り下げて終了するものに大別されます。2020年の統計によれば、第一審での比率はそれぞれ、43%、35%、12%でした。

原告と被告の間で事実関係に争いがなければ、早い段階から裁判官は双方に和解の意思があるかどうか尋ねるでしょう。事実関係について当事者間で争いがあれば双方が同意できる和解案を早期に作成することは困難ですが、審理が進行するにつれて裁判官の事実関係についての心証が固まれば、和解案を作成・提示することができます。

被告や原告が提示された和解案に納得できなければ、修正を求めるか、和解を拒否して裁判の進行と判決を求めることになります。和解を拒否するのは「和解案の内容が自分に不利。裁判官が公平に判断すれば、和解案よりも自分に有利な判決が出るはずだ」との思いがあるからかもしれませんが、現実には、同じ裁判官が、これなら公平で法的にも問題がないと判断して和解案を作成するのですから、それよりもどちらかの言い分に大きく偏る判決が言い渡される可能性はほぼありません。

その意味で、和解案の提示は「裁判官の心証開示」です。和解案の内容を見れば、裁判を継続したとして、裁判官がどのような認識でいるのか、おおよそどのような判決が言い渡されそうなのか、ある程度把握できるという意味です。

判決で勝てると絶対の自信を持てる状況でないなら、裁判官から和解の可能性を打診された時、全面拒否するのは得策ではありません。和解案の内容は今後の裁判の行方を占う手掛かりになります。和解案を検討して譲歩の余地がないと判断すれば、その時点で拒絶すればいいのです(そこから挽回して勝訴するのは困難ですが)。

和解には、裁判に早期に決着をつけて手間と時間を省くことができる他に、双方が合意さえすればどんな内容でも盛り込むことができる利点があります。例えば、被告が原告に賠償金を払うのはやむを得ないが、世間に知られるのは困ると考えれば、原告側の同意を得たうえで、和解内容の口外を禁止する条項を盛り込むことができます。裁判は公開が原則ですから、判決まで至ればその内容が広く報道される可能性があります。また、損害賠償の金額が判決に書かれれば値引きや分割支払いにはできませんが、和解案をめぐる交渉のなかで、支払い可能な額を申し出れば、相手の出方次第では減額や分割支払いとされる余地もあります。

以上、裁判所が裁判手続において試みる「裁判上の和解」について述べましたが、当事者同士が和解内容で合意してから簡易裁判所に申し立てを行い、1回の期日で和解して実効力を持たせる「即決和解」という制度もあります。裁判所が関与せずに弁護士の協力を得るなどして当事者同士が交渉して民法の規定に沿って和解する「裁判外の和解」は、端的に「和解」「示談」等と呼ばれます。