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北海道経済 連載記事

2023年5月号

第158回 本人訴訟か弁護士立てるか

 裁判を起こす前、あるいは誰かに起こされた裁判で被告になった時、まず決めなければならないのは「弁護士に依頼するのか、自分でやるのか」。民事訴訟では当事者本人が裁判手続を行う本人訴訟が少なくない。今回の法律放談は「本人訴訟」に注目する。(聞き手=本誌編集部)

原告になっても被告になっても、弁護士に依頼すれば着手金や報酬金としてかなりの金額を支払わなければなりません。勝訴できるかどうか微妙な状況、勝訴しても経済的利益が少額な場合には、弁護士に依頼すべきか、迷う人はいるでしょう。民事裁判では当事者本人が、弁護士に裁判手続や書類作成などを依頼せずに、自分で裁判手続を行うことができます(本人訴訟)。実際、私が担当する事件でも、相手方に弁護士が付いていないことがあります。

裁判は、法律や規則によって定められた手続にしたがって進められ、弁護士はその手続において依頼人の利益を最大化するための主張を行います。本人訴訟の場合、当事者本人は裁判手続には疎く、何をどうやって主張したら良いのか、わからないことが多いでしょうから、争点と関係のない主張、不明確な主張をして、解決まで時間がかかることがあります。また、主張すべき事実を主張せず、裁判で不利になることもあります。

ある離婚事件では、私の依頼人が離婚調停を申し立てたところ、調停に出席した相手方本人が「裁判所の関与しないところで話し合いたい」との希望を出しました。依頼人もこれを受け入れて調停を取り下げ、訴外で話し合いを始めたものの、結局、まとまらず、調停を再度申し立てるハメになりました。相手方にも弁護士が就いていたら、訴外で合意できる余地があるか吟味して助言したのではないかと思います。

もっとも、裁判のプロである弁護士でも不可解な主張をする人はおり、また、不可解な主張をせざるを得ないこともあるので、これはプロかアマチュアかの問題ではないのかもしれません。

事実関係が複雑で、難しい法解釈がからむような事件は、本人訴訟には不向きです。中立の裁判官が、法廷で助け舟を出してくれることは、建前上はありません。一方で、本人訴訟に比較的適している事件もあります。一定の数値を当てはめればほぼ自動的に訴状ができてしまう過払い金訴訟のような事件です。ネットでは請求額を算出するソフトが配布されています。過払い金訴訟を呼び掛けるテレビやラジオのCMが今も流れていますが、これは弁護士に高度なノウハウや判断能力がなくても、決まった方法に従えば裁判が戦えるためでしょう。

裁判所での訴訟手続は受任せず、本人名義での文書の作成のみを行うこともあります。裁判にかかる費用の節約のためであることが多いのですが、一部の事件では別の目的があります。 敗訴濃厚ですが、裁判結果に絶対に従わない方針の依頼者の場合です。依頼者の敗訴が確定して、判決内容の履行を求められた場合、弁護士の立場上、判決内容の履行をするよう依頼者を説得せざるを得ず、依頼者との関係が極めて悪くなります。このような状況に陥る可能性が高い場合には、本人名義での書類の作成のみを請け負い、本人訴訟とするよう提案します。

弁護士が関与することで、事件が本人訴訟よりスムーズに解決するとは限りません。「弁護士費用を払う分、賠償金をより多く取らなければならない」などと当事者が考えて、本人同士の訴訟よりも和解のハードルが高く場合もあるためです。