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北海道経済 連載記事

2023年4月号

第157回 法テラス 給付制化は困難

日弁連が、資力が不十分な人の裁判手続を後押しするしくみの拡充を提唱している。今回の法律放談はこの「民事法律扶助制度」や法テラスについて考える。(聞き手=本誌編集部)

法テラスは2006年から、十分なお金がないなどの理由で訴訟に踏み切れない人を支援する「民事法律扶助制度」などを運営しています。旭川弁護士会管内では、2021年の時点で79人の弁護士のうち73人、9割以上が法テラスと契約を結び、同年、管内での代理援助の数は800件以上に達しました。法テラスが裁判のしくみに深く関わっていることがわかります。

弁護士業界の一部には法テラスのために弁護士の収入が減ってしまったとの批判的な見方もありますが、私はそれほど大きな違いはないと考えています。例えば訴額500万円の事件の場合、法テラスを通さなければ着手金は訴額の5%プラス9万円、つまり34万円となりますが(従来の標準的な報酬基準)、法テラスの定めた訴額500万円の事件の着手金基準額は22万円で、別に実費等の基準額として3万5000円が認められています。ほぼ「プラス9万円」の分がなくなるわけですが、これくらいの差なら許容範囲内でしょう。

もっとも、訴額が高額な事件が多い大都市圏では、法テラスが関わると弁護士の着手金が大きく減ります。地方でも、建築瑕疵や医療過誤訴訟など、専門家の意見や鑑定等が必要とされ、時間と費用がかかる裁判、労働事件など手間がかかる事件にも法テラスの基準が一律に適用されると割に合いません。

利用者からみれば、法テラスが役に立っているのは事実です。多額の負債を抱えて返済が行き詰まった人が、法テラスを通じて弁護士に破産手続きを依頼することがよくあります。ただし、誰でもこの制度を利用できるわけではなく、利用者の資力が一定の基準より多額であったり、勝訴の見込みが全くない場合は、この制度を利用できません。また、原則的に法テラスは弁護士費用を一時的に立て替えてくれるだけで、利用した人は少しずつ返済しなければなりません(償還制。生活保護の受給者や、生活保護は受給していないが一定の条件を満たす人は償還を免除されます)。

現実には、経済的に困窮している人が裁判に勝ったとしても、慰謝料や賠償金が少額にとどまった場合、弁護士に成功報酬を支払ってもらえないケースがあります。困ったことですが、弁護士としても依頼人の経済的な状況はよくわかっており、資力がなければ辞退してあきらめるしかありません。依頼者の中には突然連絡が取れなくなり、裁判の継続ができなくなる人、勝訴が見えてきた段階で弁護士を解任して報酬を発生させないようにする人もおり、そちらの方がもっと悪質です。

民事法律扶助の償還免除については対象拡大の動きがあり、中学生以下の子どもを育てているひとり親は、離婚などの関連事件について、一律に資力回復困難要件を満たすとみなされることになる見込みです。さらに、日弁連では現在の償還制に代えて、欧米諸国と同様に返済不要な資金を提供する給付制を導入するよう提唱していますが、実現には多額の資金が必要です。現時点で法テラスの資金繰りが慢性的に苦しいのは国が十分な支援を提供していないためです。その国の姿勢が急に変化するとは思えず、実現は難しいと思います。