しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第156回 弁護士業務にAIは活用可能か

北海道経済 連載記事

2023年3月号

第156回 弁護士業務にAIは活用可能か

生活のあらゆる場面に人工知能(AI)が登場している。今回の法律放談は弁護士の仕事とAIの関わりについて考える。(聞き手=本誌編集部)

著しいIT技術の進歩の結果、AIが幅広い分野で活用されるようになってきています。近い将来、AIによって取って代わられると予測されている仕事もあります。一部の予測によれば、弁護士の仕事も大きな影響を受けるとされています。

まだそれほど広く活用されているわけではないですが、一部、弁護士の仕事を支援するAIは登場しています。たとえば契約内容をチェックするシステムは、あらゆる状況を想定して、契約に不備があれば指摘してくれます。損害賠償請求について、被害などを入力すれば適切と思われる賠償額を算出してくれるシステムもあります。

AIにとくに適していると思われる仕事が、過払い金請求です。借金した金額と時期、返済した時期と金額などのデータさえわかれば、一定の方法に従って機械的に進めることができ、弁護士が判断を求められる場面はあまりありません。B型肝炎訴訟についても、同様のことが言えます。一定の年齢層の人が感染すれば、集団予防接種が感染の原因だとみなされるためです。同じ肝炎でもC型肝炎は個々の医師が止血するためにウイルスを含むフィブリノゲン製剤を投与したか否かがカギになり、カルテに記録が残っていない場合は、担当医の証言等の証拠の収集が機械的にはできないので、AIには適していないと思います。

AIが弁護士の仕事の中でも単純だが手間がかかる部分を代行してくれて、生身の弁護士がその分の労力をAIが適していない証拠の収集や相手方との交渉に費やすというかたちでの活用は可能です。単純だが手間のかかる部分を当事者がAIを使って自分でするようになったら、弁護士業も影響を受けると思います。ただ、トラブルの処理には多かれ少なかれ機械的にできない人間相手の部分があるので、弁護士が仕事の大半をAIに取って代わられることはないと思っています。

AI活用により適していると思われる仕事が裁判官です。刑事事件にせよ民事事件にせよ、裁判官は担当した事件について、過去に裁判所が出した類似事件の判決とのバランスを常に考えて判断しています。特に刑事事件で事実に争いのない裁判の場合がそうです。あまり創造性が求められる仕事ではなく、以前書いた判決文を引用して、ところどころ修正して別の裁判の判決文にしていることも多いように思います。自ら積極的に発言するのではなく、双方の主張を聞いた上で判断を下す裁判官の仕事は、駆け引きや人情が入る余地が少ないので、AIで代替しやすいはずです。

問題点もあります。第一に、情状立証にどう対応するのかです。被告人が反省し、家族も被告人の更生を支える姿勢を示しているとしても、どこまで刑を軽くするかは裁判官によってさまざまであり、明確なルールを定めるのは難しいかもしれません。第二に、裁判官がAIの意見を聞いて判決の内容を決めれば、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と定めた日本国憲法憲法76条3項に違反する可能性があります。被告人としても、AIに重刑を科された上で反省しなさいと言われても、素直には受け入れられないでしょう。