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北海道経済 連載記事

2023年2月号

第155回 社会での反省促す執行猶予

同じ有罪判決でも、執行猶予が付くか付かないかで被告人の人生に与える影響は大きく異なる。今回の法律放談は、執行猶予に注目する。(聞き手=本誌編集部)

刑事裁判で、弁護士は被告人に有利な判決を獲得するため最大限の努力をします。有利な判決とは無罪判決が典型ですが、日本の司法制度では刑事被告人の大半に有罪判決が言い渡されるのが現実です。有罪でもなるべく軽い量刑に、執行猶予を付すことができる場合は被告人のために執行猶予の付された判決を獲得することが目標となります。

判決ではまず、主文で有罪か無罪か、有罪の場合には量刑が裁判官によって言い渡されます。執行猶予を付すことができる場合、被告人、そして弁護士が注目するのは、そのあとに執行猶予が言い渡されるか否かです(死刑とすべきかどうかが争点になった事件の裁判では主文が後回しで、まず判決理由が読み上げられるのが一般的です)。

統計によれば、懲役刑が言い渡された一審判決のうち約6割には執行猶予が付されています。たとえば「懲役2年、執行猶予5年」の判決なら、今後5年間、犯罪を犯さなければ服役する必要はありません。もっとも、執行猶予はあくまでも有罪であり、刑の執行を猶予しているだけなので、猶予期間中に犯罪を犯し、執行猶予が取り消された場合、今回起こした犯罪の刑期が加算されて、刑が執行されます。執行猶予期間中の人の10%強の人は猶予を取り消されています。

執行猶予が付されれば、社会生活を続けて、家族がいれば一緒に暮らすことができます。普通の生活の中で反省するよう促すことが制度の目的です。実刑判決だと、社会との関係が一定期間絶たれてしまうために、被告人の生活に大きな影響が及びます。

裁判官が執行猶予を付けられる罪は、禁錮または懲役3年以下、罰金50万円以下のものに限定されています。被告人が反省していることも要件です。基本的に執行猶予の「チャンス」は1回だけで、執行猶予が明けて犯罪を犯した場合は、執行猶予が付されず実刑判決となることが多いです。なお、執行猶予期間中に犯罪を犯した場合でも執行猶予を付すことができる場合があり(再度の執行猶予)、禁錮または懲役1年以下、罰金50万円以下で、特に考慮すべき情状がある場合と、要件が一段と厳しくなります。

執行猶予を付すか否かは、個々の裁判官の裁量によりますが、影響を与えるのが検察官による求刑の内容です。執行猶予を付す場合の判決は、求刑と同じ刑期で減刑しないのが通常なので、懲役3年を超える求刑が行われた場合、「執行猶予を付すべきではない」と意見表明したに等しくなり、 ハードルが高くなります。裁判官が減刑した上で執行猶予を付した場合、検察は控訴するでしょう。

なお、初犯で比較的軽い罪の場合には、執行猶予が付く可能性が高いのですが、付かないこともあります。罪を犯したことは明らかなのに不合理な釈明をしたり、自白以外の証拠がそろっている状況で黙秘を貫いたりすると、裁判官に反省していないとみなされ、初犯でも実刑判決が言い渡されることがあります。私が司法修習生時代に目にした事件では、車上荒らし事件の被告人が「軽く叩いたら車のガラスが割れた」「車内で休んでいただけ」などと述べて反省の色なしと判断され、初犯なのに一審は実刑でした。二審では一転して罪を認め、反省の姿勢を示し、執行猶予をもらっていました。