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北海道経済 連載記事

2023年1月号

第154回 法務大臣は要職なのか

法務大臣が死刑に関する問題発言のために早期辞任に追い込まれた。経産大臣、財務大臣などの花形閣僚と比べ地味であることは確か。法務大臣が取り仕切る法務行政さえ、弁護士業務に大きな影響を与えることは少ないが、今回は「唯一の例外」を振り返る。(聞き手=本誌編集部)

岸田政権で閣僚の辞任が相次いでいます。11月11日には葉梨康弘法務大臣が事実上更迭されました。「法務大臣というのは、朝、死刑のはんこを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ」との発言が批判を集めました。死刑の存廃に議論がある中、死刑判決を言い渡す裁判官も、死刑執行を担当する刑務官も、命を削るような思いで職責を果たしていることを考えれば、この発言はあまりに軽率であり、当初は続投させる意向を示していた岸田首相も、最後はかばいきれなくなりました。

とはいえ、法務大臣が地味なポストであることは否定できません。法務行政は専門性が高く、官僚や有識者が決める方針に大臣が口をはさむ余地が少ないために、経産相、財務相、外相といった花形閣僚と比較して、前途有望な政治家が選ばれることはほとんどありません。ちなみに、約3年前に法務大臣となった河井克行氏は公職選挙法違反で早期辞任し、裁判で懲役3年の実刑判決を受け、現在服役しています。過去には自身の名前の入ったうちわを配ったことが問題視されて辞任に追い込まれた法務大臣もいました。

誰が法務大臣に選ばれようとも、法務行政は弁護士業務にはあまり影響が出ないのですが、例外は私が司法試験を受験していた頃から推進された法曹養成制度改革です。制度改革の実施が1年ずれていたら、私は弁護士になれなかったかもしれません。

私が司法試験の受験を続けていたころは、論文試験では刑事訴訟法と民事訴訟法はどちらか一つを選択すれば済みました。ところが1995年に法曹養成制度改革協議会が、最高裁や日弁連の考えも取り入れて、論文試験では刑訴法と民訴法をどちらも必須とすべきとの意見書をまとめました。私は民訴法だけについて論文試験対策をして、1999年に司法試験に合格しましたが、翌2000年からは意見書に沿って刑訴法・民訴法がともに必須科目となり、法律選択は廃止されました。時間をかけて強化した科目が一つ無くなり、これまで勉強していない科目が一つ増えるわけですから、ベテラン受験生への影響は大きいです。合格に迫りながら、科目変更が影響して、3年以上合格が後れたり、結局、合格できなかった人もいます。

もちろん、司法試験で刑訴法しか選択しなかった人も、法曹になれば民事裁判に、民訴法しか選択しなかった人も刑事裁判に関わっています。どちらの法律もたくさんの条文がありますが、実務で頻繁に使う条文はその一部だけであり、司法試験に合格してから勉強しても間に合います。

法務行政で私にも影響があったのは司法改革くらいのものです。近年の法務大臣の中には4代前の森まさこ氏、6代前の山下貴司氏など法曹資格を持っている人が何人もいるのですが、彼らも専門知識や経験を生かして印象深い仕事をしているわけではありません。閣僚名簿では首相、副総理、総務大臣の次に来る要職なのですが、戦後、法務大臣経験者から一人も首相が誕生していないという事実が、このポストの軽さを物語っているのかもしれません。