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北海道経済 連載記事

2022年12月号

第153回 調停 もう一つの紛争解決

裁判所は裁判を行うための場所だが、裁判所を舞台に行われる紛争解決のためのもう一つのしくみが調停だ。今年は日本に調停制度が導入されてから百年となる節目であり、先日、旭川地裁では記念の模擬調停の見学会が開かれた。今回の法律放談は調停のしくみに注目する。(聞き手=本誌編集部)

裁判では双方の言い分を聞き、証拠を調べた裁判官がどちらが正しいのか判断するのに対し、調停は勝ち負けを決めるわけではなく、話し合いを通じて双方が納得できる合意を目指します。最終的にそのような合意が見つからず、調停が不成立に終わることもあります。

離婚その他の家庭問題は、裁判する前に調停(家事調停)による解決を目指さなければならないと法律で定められています(調停前置主義)。

家事調停では裁判官である審判官と、民間から選ばれた調停委員2人以上から構成される調停委員会が、当事者双方の主張を順番に聞き、助言やあっせんをしながら、双方が受け入れられる合意 の形成を促します。当事者同士が直接向き合うことはなく、交互に入室して調停委員と話をします。1回目の調停期日で調停が成立しなくても、まとまる余地がありそうなら別の日にまた双方に来てもらい、2回目、3回目と話し合いを続けます。

調停委員には、相続関係等で専門知識が必要なケースだと弁護士や税理士、離婚など縁組関係については教師や僧籍をもった人が選ばれることが多いようです。

合意ができれば文書にまとめられます(調停調書)。その内容に当事者は拘束され、履行しなければ差し押さえの根拠となる強力な文書です。

ただし、調停では、申し立てられた人(相手方)に出席義務はありません。調停は合意が形成できなかったり、相手方が欠席して調停に応じない場合は不成立となります。実際、離婚に関する調停の相手方が、指定された期日、会場の家庭裁判所に現れないことはよくあります。調停に応じない意向が明確な場合は審判官が調停の不成立を宣言して、訴訟など次のステップに移ります。

また、相手方が行方不明だったり、反社会勢力であるなどの理由で話し合いが見込めない等、調停の実施が困難な事情がある場合、調停しないで訴訟を提起できる場合もあります。

離婚など家事調停は件数が多いのですが、対照的にあまり活用されていないのが、一般的な民事紛争を対象とする民事調停です。紛争の相手方が調停に応じず出頭しないことが多いことが理由ですが、裁判では厳密な証明が求められるのに対して、調停ではそれほど厳密な証明でなくても、紛争の早期解決のため、申立人の主張を相手方が一定程度認めることがあります。紛争が長期化し立証活動に疲弊することを考えれば、民事調停がもっと活用されていいのではないかと感じています。

なお、家事調停の場合は調停の開始前に、審判官から調停委員に、調停成立・紛争解決へのアウトライン・方向性が示されます。調停が不成立で裁判に移行した場合、裁判では調停段階での審判官の見解が反映される可能性が高いとみていいでしょう。

調停委員の報酬は半日勤務なら数千円とわずかな額です。私も裁判所から委託されて調停委員を務めることがありますが、報酬が目的ではありません。むしろ、調停を通じて裁判所の側から事件に接し、裁判所が目指す紛争解決に接することができることに意義を感じています。