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北海道経済 連載記事

2022年11月号

第152回 退職金の財産分与について

離婚の際、財産分与が行われるのは常識。夫妻のうちどちらか一方だけが働いていた場合でも、夫婦の財産を働いていた側が退職金を独占することは許されない。ただし、「将来獲得できるはずの」資産である退職金はやや特殊な扱いを要する。今回の法律放談はこの点に注目する。(聞き手=本誌編集部)

離婚の際には財産を分与する必要があります。夫婦が共同生活を営みながら形成した財産は公平に分けられるべきで、離婚後にどちらかが経済的に困窮するのは不公平との考え方がその背景にあります。現金、預貯金、不動産、有価証券などが分与対象となります。なお、同居する前からどちらかが所有していた財産は分与の対象になりません。別居を開始した後で獲得した財産も対象外です。

ここで注意を要するのが退職金の扱いです。一般的な世帯で、退職金は重要な資産であり、老後の暮らしを退職金で支える人も多く、財産分与では退職金をどう分けるかが一つのポイントとなります。

たとえば夫婦のうち一方が民間企業に22歳で就職、25歳で結婚し、50歳で離婚し、退職金を勤務先からもらえるのが60歳で、もう一方は結婚後に仕事に就かず家事を担っていたと仮定します。退職金のうち25歳から50歳の25年間に相当する部分は夫婦の共有財産ですから分与しなければなりません。

問題がひとつあります。とくに民間企業の場合、退職金は業績にもある程度連動しており、正確な金額が退職する直前まで確定しません。離婚後に勤務先の業績が上向きになり、昇給すれば退職金も増えるでしょうし、業績が悪化すれば給与がカットされて退職金が減ったり、勤務先が倒産して最悪ゼロになる可能性もあります。個人の都合で転職して退職金が変動する可能性もあります。前記の例で言えば、50歳で離婚する時点で、退職金をいくら分与するのかは決めようがありません。

退職が2〜3年後に予定されているのであればあらかじめ協議書で定めておくことになりますが、15年、20年先だと非常に困難です。このような状況では金額を一定程度割り引いた上で、退職を待たずに早期に分与するかたちで解決を図ることがあり、裁判所もこうした方法を勧めます。こうすれば早期に紛争を解決することができるためです。分与を受ける側としても、額は少なくなっても、将来の大幅減額のリスクを避けて収入を早期に確定できる利点があります。

ただし、収入が安定していて退職金の額を計算しやすい公務員などについては、こうした方法は用いられす、退職するのを待って分与するか、早期解決のために離婚時に用意して支払うよう要請されます。

夫婦のうち片方が働き、もう片方が主婦または主夫である場合には、退職金の分与は働いている方からもう片方に対して行 われます。共働きの場合には、それぞれ分与の金額を計算して、相殺が行われます。今の時代、「男だから」「女だから」などと性別によって扱いが変わることはもちろんありません。

なお、夫婦のうちどちらかが不貞などで離婚の原因を作った場合にも、財産分与でこうした事情が直接考慮されることは基本的にありませんが、慰謝料的要素を含めて財産分与の方法や金額を決定することはあります。