しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第151回 裁判の長期化傾向について

北海道経済 連載記事

2022年10月号

第151回 裁判の長期化傾向について

裁判には手間やお金だけでなく、時間がかかる。刑事裁判に裁判員制度が導入されたこともあり、裁判所は迅速化に取り組んでいるものの、いったん短縮の傾向にあった審理期間が、再び長期化する兆しを見せている。今回の法律放談では、長期 化の理由や長くなりがちな裁判の種類に注目する。(聞き手=本誌編集部)

1990年、国内のすべての地方裁判所の民事事件第一審の平均審理期間は12.9ヵ月(和解含む)、このうち被告への尋問が行われて判決で終了した裁判は20.9ヵ月でした。その後、裁判の迅速化が進んだ結果、2009年にはそれぞれ6.5ヵ月、10.8ヵ月となりました。その後は再び長期化傾向へと転じ、2020年の時点ではそれぞれ9.9ヵ月、13.9ヵ月となっています。21年の数字はまだありませんが、コロナ禍の影響で大幅な長期化は確実です。理由についてはさまざまな指摘がありますが、大きな要素は過払い金返還請求訴訟の減少です。この種の裁判はほぼ決まった手順で進められ、争点があるとしても、いったん完済してその後再びお金を借りたといった特殊なケースで融資期間をどう計算するのか、被告の消費者金融会社やカード会社からの「経営が苦しいので返還を猶予してほしい」といった要請にどう応えるのか程度です。このため提訴から3〜4ヵ月のうちに決着するのが一般的です。一時的に過払い金返還請求訴訟が増えたことが、裁判全体の迅速化をもたらしていたのではないかと思います。

しかし、返還請求の対象となる事例の多くについてすでに提訴が行われ、時効を迎えた事例も多いことから、新たに起こされる過払い金返還請求訴訟は減っています。このため、2009年ごろから裁判長期化の傾向に転じたのでしょう。

とはいえ、日々の弁護士業務から、決着がつくまで長い時間がかかるという実感がある裁判もあります。たとえば医療ミスに関する訴訟では、原告(患者)側が、医療行為にミスがあったとの見解を示す医師をどこからか探してこなければなりません。見つけてから医師に文書を作ってもらうまでにまた時間がかかります。裁判所もそのあたりの事情を考慮して、期日と期日の間を長くとる傾向があります。すべての地方裁判所の民事事件第一審の平均審理期間を医療関係だけで見ると、2020年の時点で26.7ヵ月。以前より短くなっているとはいえ、平均の約2倍となっています。

交通事故の裁判も長期化することがあります。車体の損傷から事故の状況を推定する専門家からの証言を得る場合や、被告(加害者)側が、事故の時点で被害者に既往症があったと主張して、それまでの医療記録を医療機関に請求して証拠として提出し、被害者のケガや病気は事故のためだけではないと主張する場合などです。

反対に、民事裁判の決着を早期に付けるのが和解です。裁判所が妥当と考える和解条件を双方が受け入れることで、判決を言い渡さずに裁判を終了する方法で、原告、被告だけでなく裁判所にとっても迅速化の効果があります。和解条件にどちらかが納得できなければ裁判を継続することになりますが、判決で命じられる賠償金額などの数字が和解案からかけ離れることはほとんどありません。