しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第145回 刑事弁護の実態は情状弁護

北海道経済 連載記事

2022年4月号

第145回 刑事弁護の実態は情状弁護

刑事裁判のほとんどで被告人には有罪判決が言い渡される。もっとも、無罪判決獲得を目標とする事件は少ない。今回は、もっぱら情状弁護が中心となっている実態について。(聞き手=本誌編集部)

日本の刑事裁判制度で大半の被告人に有罪判決が言い渡されることは広く知られています。2020年版司法統計によれば、同年に全国の地裁で判決が確定した被告人のうち、人数ベースで約97%には有罪判決が言い渡されました。控訴審でも原審の無罪判決が覆される傾向にあります。最近「99.9」というドラマもテレビで放送されました。言うまでもなく、あくまでもドラマの世界の話で、刑事弁護の実態とはかけ離れています。

被告人が容疑を否認している場合(否認事件)では、弁護人も当然、無罪を主張します。ただし、被告人が容疑を否認し、かつ、その否認が不合理ではない事件自体がほとんどないので、無罪判決の獲得を目標とすることは僅かです。刑事弁護のほとんどは情状弁護、容疑を認めて情状酌量を求める弁護であるのが現実です。有罪であるが執行猶予付きの判決を獲得すること、刑期を短くすることを目標とします。

被告人が仕事に就いて家族を養っていたり、家族の介護を行っていたり、何人も従業員を雇っていたりすると、被告人に執行猶予が付くか否かで被告人の今後の人生、家族・従業員の生活は大きく変わってきます。公判では、その旨主張した上で、被告人の深い反省、更生を支援する協力者の存在などを主張し、執行猶予を付した判決を求めます。

被害者との示談が成立していれば、執行猶予の確率が高まります。詐欺や泥棒といった財産犯の場合、被害は金銭的な被害が中心となるので、被害弁償することで比較的示談が成立しやすいです。被害額が少額の場合には、弁護人が自腹を切って被告人の代わりに弁償することもあります。

被告人の家族や勤務先の経営者などに、被告人の更生に向けてしっかりとサポートしていく旨の証言をしてもらうことも、あります(情状証人)。

執行猶予を付けられるのは、3年以下の懲役刑・禁固刑、50万円以下の罰金刑に限られるので、これらに該当しない場合は、弁護人は少しでも量刑を軽くすることを目指します。刑期が検察官の求刑の半分以下の判決に対しては、検察官がこれを不服として控訴することがあります。

情状弁護がうまくいかないことも多いです。常習犯の場合には情状弁護は効果が薄いですし、被害者の身体を傷つけた場合、とくに性犯罪では、被害者の被害感情が強いため、示談交渉を拒絶されることが多いです。

国選弁護については国が弁護士費用を負担するのですが、なぜ、犯罪者のために国費を支出するのかという根源的な疑問をよく耳にします。情状弁護がしづらい常習犯や凶悪犯・性犯罪者についてはその通りと思います。これらの場合、国選弁護の存在意義は冤罪防止に求めるしかありません。

以上、刑事裁判の話でしたが、民事裁判でも似たようなことが起こります。例えば損害賠償を命じる判決が言い渡されれば、名目上は被告の敗訴です。しかし、原告の請求が全部認容されることは少なく、被告の敗訴は一部敗訴であるのが通常です。認容金額が些少であれば被告の実質勝訴です。裁判費用や弁護士費用にもとどかない場合は原告は敗訴したと思うでしょうから被告の勝訴と言って良いと思います。