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北海道経済 連載記事

2022年3月号

第144回 日弁連で会長選挙

全国4万人余りの弁護士の団体が日本弁護士連合会(日弁連)今回の法律相談は、先ごろ行われたその会長選挙に注目する。(聞き手=本誌編集部)

今回の選挙に立候補したのは、及川智志氏(56歳)と高中正彦氏(70歳)、小林元治氏(70歳)の3人で、このうち及川氏は千葉県弁護士会、高中氏と小林氏はいずれも東京弁護士会(東弁)の元会長です。高中氏はラジオ番組の「テレフォン人生相談」に出演していたので、声を覚えている人がいるかもしれません。

日弁連会長をめぐっては、東京から3期(1期2年)にわたって会長を出し、大阪から1期出す慣例が守られていました。東京には東弁のほか東京第一弁護士会、第二東京弁護士会があり、大阪弁護士会を含めた四つの会の間で合意が形成されれば、選挙の前に結果は決まっており、地方の弁護士が日弁連のトップに立つことは不可能でした。

しかし、2020年の選挙では5人が立候補、決選投票が行われ、仙台弁護士会の会長だった荒中氏が第二東京弁護士会出身の候補を破って会長となりました。東京、大阪以外の弁護士会からの会長選出は34年ぶり2人目で、新風を日弁連に吹き込んでくれるのではないかと期待したのですが、コロナ禍のために日弁連の活動が思うようにできず、目立った成果はなかったように思います。

さて、今回の候補3人の中で目立っていたのは及川氏でした。50代半ばという年齢もさることながら、弁護士の生活を守るため「司法試験合格者数を年間1000人程度に」といった大胆な目標を掲げました。若手弁護士の中には、多額の学費を払ってロースクールに通って弁護士になったのに、低収入にあえいでいる人もいます。このため及川氏の「1000人程度に」との具体的な目標に共感を覚えた弁護士は若手を中心に少なからずいたでしょう。

高中氏と小林氏は、いずれも東京弁護士会の所属で、二人とも同会の会長経験者なのですが、所属している派閥が違います。高中氏は法曹親和会、小林氏は法友会です。二人とも立候補したのは、派閥間の調整がうまくいかず、どちらも引かなかったためでしょう。

会長に当選するためには、弁護士一人一票の選挙で最多票を獲得すると同時に、全国52の単位会の3分の1以上(18以上)の単位会で最多票を獲得しなければなりません。二つの条件を満たす人がいなければ決選投票です。45単位会で最多票を獲得している限りは落選することはないので、接戦の単位会に対して多数派工作が行われます。旭川のような小規模弁護士会は数票で最多得票者が変わり得るので、個々の弁護士を狙って熱心な集票活動が行われます。宇都宮健児氏が当選した会長選挙では、主流派閥の多数派工作が功を奏せず、決選投票の末に宇都宮氏に敗れています(宇都宮氏は次回も出馬し、2度の決選投票の末に敗れて再選されませんでした)。

2月4日に行われた投票の結果、小林氏が投票総数で最多得票を獲得し、最多得票を獲得した単位会も39単位会で首位となり、次の日弁連会長に内定しました。小林氏は穏健派であり、新体制の日弁連が過激な改革に乗り出す可能性は薄いでしょう。及川氏が当選すれば日弁連の大幅な方針転換につながったかもしれませんが、支持は広がりませんでした。ただ、約2割の票を獲得したことから、小林氏の新体制もその声を完全には無視できないはずです。