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北海道経済 連載記事

2022年2月号

第143回 当番弁護士制度とは

刑事ドラマの裁判のシーンに登場する「国選弁護制度」はよく知られている。今回の「法律放談」は、その前段階をカバーする「当番弁護士制度」に注目する。(聞き手=本誌編集部)

ほとんどの人は、逮捕されたことなどないでしょう。それだけに、突然現れた刑事に「逮捕する」と告げられたら慌てるはずです。刑事事件の処理を仕事としている警察官や検察官との経験値の差は圧倒的で、不利な状況に立たされるかもしれません。そこで各地の弁護士会は「当番弁護士制度」を運営しています。

検察官は、被疑者が警察に逮捕されてから72時間以内、または警察から被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内に裁判所に勾留請求を行う必要があります。裁判官は、被疑者の身体を拘束する必要があるかどうかを、被疑者と面接して判断します。勾留が決まった被疑者は、資力に余裕があれば、私選で弁護士に依頼することができますが、貧困などの理由で弁護士を選任できない場合には、裁判所などの判断で「国選弁護人」が付きます。いわゆる「国選弁護人」とは起訴後の被告人に付く国選弁護人のことであり、これと区別するため「被疑者国選弁護人」と呼んでいます。被疑者国選弁護が導入されたのは、2006年10月からで、2018年6月から、被疑者が勾留されるすべての事件に対象範囲が拡大されています。被疑者国選導入前の事件、導入後でも被疑者国選対象外の事件は、当番弁護士制度の対象でした。

現在は、逮捕されてから勾留されるまでの期間が当番弁護士制度の対象です。この間、被疑者が不利な立場に陥らないようさまざまなサポートを提供するのが「当番弁護士」です。旭川弁護士会では、当番弁護士の待機リストをあらかじめ用意しており(同じ日に複数の事件が発生する可能性に備えて、主担当と副担当がいます)。被疑者や家族などからの依頼があれば、弁護士会を通じて連絡が来て、その日の担当弁護士が警察署などに赴いて被疑者に1回面会しています。被疑者が負担する費用はありません。

当番弁護士の基本的な役割は、被疑者に対して、勾留されるか、勾留後の処遇(釈放されるか、罰金か、裁判か)と、その時期の見通しを示すということです。また家族や勤務先などに被疑者に代わって連絡することもあります。まれですが、被害者と早期に示談すれば、被害届を取り下げてもらえる場合は、勾留前に私選受任することもあります(弁護士費用は弁護士会の制度を利用)。

被疑者が容疑を否認している場合、私は黙秘することを勧めます。不利な供述をしてしまったら裁判で挽回するのは極めて難しいからです。本格的な支援は勾留決定後に国選、または私選弁護人が提供しますが、それまで待っていられないこともあります。

さて、誰がいつどこで逮捕されるのか予測することはできませんから、当番弁護担当の日は他の予定を極力入れないようにしています。当番の依頼があってから24時間以内に被疑者に会いに行くのが基本であるため、司法過疎がある程度解消されて、以前より少なくなったものの、被疑者が稚内・天塩等、遠方にいるときには、一日仕事になり、天候によっては宿泊を余儀なくされます。

現在の当番弁護士制度は弁護士会が費用を負担して運営している民間の制度ですが、将来は公的な制度として整備されることが望まれています。