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北海道経済 連載記事

2022年1月号

第142回 証拠書類のコピーが負担に?

あらゆる分野でデジタル化、効率化が進んでいるが、その遅れが指摘されているのが裁判所。いまもほとんどの裁判書類は郵便やFAXで送付されているが、それが費用の膨張や公平な裁判の妨げになっているとの指摘がある。今回の「法律放談」では、この地域ならではの書類をめぐる事情を紹介する。(聞き手=本誌編集部)

1年ほど前、こんなニュースがありました。「刑事裁判で検察が持っている証拠書類を、被告人の弁護士が入手するには1枚40~50円の謄写(コピー)料金がかかり、書類が大量にある事件では総額数百万円に達することもある。費用面の負担を理由に証拠の入手を断念することもあり、弁護士有志たちが、裁判書類の電子化を通じて謄写を不要とするよう求める活動を始めた」

しかし、被告人が起訴事実を認めている事件(自白事件)の裁判では、検察が主張する公訴事実(犯罪事実・犯行状況)に反論する必要はなく、もっぱら「被告人は十分に反省しており重罰は必要ない」などといった情状弁護が中心となるので、大量のコピーは必要とならないことが多いです。このあたりの事情は東京でも旭川でも同じです。

なお、謄写料金1枚40~50円は高く感じますが、これは重要な証拠書類をコピー作業の過程で傷つけてはいけないため、自動読み取り機能を使わず、1枚ずつ手作業で丁寧にコピーしているためのようです。

被告人が公訴事実を認めていない事件(否認事件)の裁判や裁判員裁判では、謄写費用を国が負担します。裁判員裁判では証拠書類が段ボールいっぱいになることもありますが、その費用を被告や弁護士が負担するようなことはありません。

誰が謄写の作業を行うかについては、旭川と大都市圏の間で違いがあります。東京などでは一般財団法人司法協会が作業を担っていますが、旭川地裁では旭川弁護士会が設立した協同組合の職員が、弁護士からの依頼を受けて、裁判所や検察庁で謄写を行います。旭川の弁護士が恵まれているように聞こえるかもしれませんが、旭川地裁管内は稚内、名寄、紋別、留萌の地裁支部まで何百キロも車を走らせて謄写に行かなければならないことがあります。弁護士自ら謄写に赴くこともあります。こうした特殊事情があるため、旭川の弁護士が大都市圏と比べて恵まれているわけではありません。

しかし、前述した一部弁護士の呼びかけに加えて、コロナ禍で裁判でも人と人が会う機会を極力減らすことが求められているために、法務省は「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」を2021年3月に立ち上げ、有識者の間で話し合いを重ねてきました。これまでに令状の電子的な発行、電子データの改ざん防止措置、オンラインでの証拠書類の閲覧といったテーマが取り上げられています。

現在は民事も刑事も裁判の書類を紙媒体のまま、またはFAXでやりとりしています。以前にもこのコーナーで述べた通り、私個人は紙媒体に不満は感じていませんが、電子化という時代の流れが止まることはないでしょう。弁護士の業務の中には、各地の弁護士会や日弁連の会務のように、裁判以外のものも多くありますが、こうした会務ではすでに大量の資料が電子化されて送られてきています。