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北海道経済 連載記事

2021年12月号

第141回 関心薄い「国民審査」

10月31日に衆議院議員選挙と同時に行われたにも関わらず、ほとんど誰も関心を払わなかった恒例行事が「最高裁判所裁判官国民審査」。今回の法律放談は、世界に例がほとんどないこの制度に注目する。(聞き手=本誌編集部)

衆議院議員選挙と同時に行われる最高裁裁判官国民審査では、前回の国民審査以降に選ばれた最高裁裁判官について、有権者が罷免すべきと考えれば、投票用紙の当該裁判官の欄に×印を記入して意思表示します。とはいえ、大半の人は何も記入しないまま投票しており、今回の審査の対象になった裁判官の名前を憶えている人もほとんどいないと思います。

×印票が過半数を超えた裁判官は罷免されます。国民感情からかけ離れた判決、著しく不合理な判決が言い渡されれば、国民が直接、裁判官を辞めさせることができるわけですが、あくまでもそういう制度が整えられているというだけの話で、過去に国民審査で罷免された裁判官は一人もいません。なお、一度審査対象になった最高裁裁判官はその後10年間は対象から外れます。実際にはほぼすべての最高裁裁判官が1回だけ審査を受けて定年を迎えます。

国民のほとんどは国民審査に無関心で、選挙一色となるマスコミ報道も国民審査にはまったくといっていいほど触れません。私たち弁護士の間でも、国民審査が話題に上ることは皆無です。

最高裁裁判官の人選について弁護士が関心を持つとすれば、「弁護士枠」についてです。15人の最高裁裁判官のうち4人は日弁連が推薦する弁護士との不文律があったのですが、2017年、当時の安倍政権が新たに最高裁に送り込んだ裁判官に、弁護士資格は持つが弁護士としての活動実績がない元大学教授が含まれていました。事実上、弁護士枠が1人減ってしまったわけです。弁護士枠の裁判官が政府の意向に反した判決ばかり出すために、政権の怒りを買ったとも言われています。その裁判官は前回の国民審査の対象でしたが、罷免率は他の裁判官とそれほど変わりませんでした。

前回から今回の国民審査にかけては、夫婦同姓や政教分離、表現の自由、袴田事件の再審開始、元看護助手の再審開始など注目度が高い判決や決定が多かったのですが、11人が対象となった今回の国民審査でも、罷免率は最高7.85%で、罷免された裁判官はいませんでした。

国民審査が機能していない一因は投票方法にあります。選挙では支持する人や政党の名前を書きますが、国民審査では信任しない裁判官にに×印をつけます。信任する裁判官には〇印をつけて〇×方式にするとか、全て空欄票は無効票とするような仕組みにすれば有権者が国民審査にも関心をもつかもしれません。

このように現行の国民審査は国民主権、司法に対する民主的コントロールの象徴に過ぎません。もっとも、審査される最高裁判所裁判官は罷免の可否や罷免率に関心があるようで、罷免されないにしても罷免率が高くなることを不名誉と考えているようです。審査リストの先頭にいる人の罷免率が高くなる傾向があるため、審査リストの掲載順は抽選で決められています。また、今回は、罷免率上位4人は、夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲との意見を述べた裁判官でした。罷免されないものの、罷免率が高いと堂々と信任されたとは言えないでしょう。罷免率が高いという形で国民の意思が示されたとも言えます。罷免率が高い裁判官を推薦した団体の推薦枠に影響が出るようにすることも検討の余地があると思います。