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北海道経済 連載記事

2021年10月号

第139回 弁護士業は書面との格闘

法廷での応酬は裁判の一部に過ぎず、実際の裁判手続きの多くは書面のやりとりを通じて行われる。このため法律事務所では、保管される記録の量が増えていくことになる。今回の法律放談は、裁判の記録に注目する。(聞き手=本誌編集部)

裁は法廷での応酬というイメージが定着していますが、実際は書面でのやりとりが主です(書面主義)。弁護士は書面を作成して主張し、係争相手からもその主張が記載された書面が送られてきます。裁判が長期化すれば主張・立証(証拠や証人)も増え、事件記録は分厚いものになります。

私は弁護士登録してからこの10月でちょうど20年になります。最初の5年間は大量の刑事事件を受任しました。当時は検察庁にある刑事記録の謄写(コピー)費用を国が出してくれていたので、私は刑事記録を全部謄写してから裁判に臨んでいました(この制度が廃止されてからは、被告が容疑を認めている自白事件の場合、弁護活動に必要な記録だけを謄写するようになり、謄写する記録の量が減りました)。

弁護士になってから4年間は、他の法律事務所に勤務する「イソ弁」でした。自分に直接依頼があった事件を個人事件、事務所に依頼があった事件で自分が担当になった事件を事務所事件と言います。民事事件の大半は事務所事件で、事件記録の管理も事務所で行うため、独立の際、それまで担当した民事裁判の記録は勤務先に置いてきました。他方、刑事事件の大半は個人事件なので、事件記録も独立と同時に今の事務所に持ってきました。

裁判所では、一般的な裁判記録の保存年限を5年と定めています。私も古い裁判記録は廃棄していますが、無罪を獲得した事件、弁護活動がうまくいって被告人の量刑に反映された事件、社会の注目を集めた事件等、印象に残っている事件の裁判記録は保管しています。

従前の裁判記録を参照する必要が生じるのは、同じような状況に遭遇した時です。前回自分でどのような主張を行ったのか参考にします。医療訴訟などは独特の対策が必要になることもあり、過去の経験が役立ちます。依頼者の中には、一つの裁判が終わってしばらくしてから、従前の事件の賠償金が支払われない、交通事故に再度遭った等、従前の依頼と関連した依頼を持ち込んでくる人がいるのですが、このような状況でも従前の記録が役立ちます。従前の裁判記録は年々増えていて、事務所の書棚には入り切らず、一部は物置や実家に置いています。いつかは整理をしなければなりません。

さて、これらの大量の記録を常に整理していれば、必要なものを即座に探し当てることができます。有能な弁護士は、みんなやっていると思いますが、私の場合は、残念ながらそうではありません。探し当てるまで時間がかかることがありますが、幸い、記録を紛失したことはありません。

弁護士の中には、書類を次から次へとスキャンして電子データにしてから管理している人がいます。そうすれば出張の際も持ち運びに便利で、保管するのに必要なスペースはほとんど不要になりますし、探す手間も省けるはずです。

私の場合は、縮小コピーしたり、行間を詰めたりして、できるだけ多くの情報を1枚の紙に集約することで、多くの情報が一度に視界に入るようにしています。また、良いアイデアを思いついてもすぐ忘れるので紙にメモすることにしています。パソコンだと前に戻ったり先に進んだりするのに手間がかかりますし、書き込むために煩雑な操作が必要です。操作を誤ってせっかく作った書面を消去してしまうこともあります。ですので、私は、視力に問題がないこともあり、最後まで紙派でいるつもりです。