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北海道経済 連載記事

2021年9月号

第138回 弁護士の「証拠収集力」

裁判とは、当事者間で主張が対立し、争いある事実について、証拠を出し合って、どちらの主張が信ぴょう性が高いか裁判官に決めてもらう場だとも言える。今回は、勝敗の決め手にもなることがある弁護士の「証拠を集める力」に注目する。(聞き手=本誌編集部)

弁護士の頭の良し悪しで裁判結果に大きな差は生じません。というのは、裁判は訴訟法に定められた手続やルールに従って進むものだからです。まれにルールから外れて、裁判の引き伸ばしをめざすなど法律論以外の部分で勝負する弁護士や、マナー違反の行為で相手を困惑させる弁護士もいますが、彼らがそうした行為を通じて有利な判決を引き出す余地はほとんどありません。

弁護士によって違いが出るとすれば、それは「証拠を集める力」です。裁判は当事者が主張した事実のうち、争いある事実を、当事者が提出した証拠で、裁判官がいずれかに認定することですから、どんなに弁護士が頭が良くても、証拠を提出できなければ、敗訴してしまいます。勝敗は頭の良し悪しではなく、証拠の有無で決まります。

高度な専門知識を要する分野の裁判の場合、一般常識だけでは判断ができませんから、証拠(証言を含む)は一段と重要になります。例えば、交通事故や医療過誤で損害賠償を請求する裁判で、過失の有無や行為と結果との間の因果関係の有無等が問題となった場合、専門書に一般的な事項や過去の裁判例は書いてありますが、実務において全く同じ事件というものはなく、個別具体的な事例で、過失や因果関係の有無が問題となった場合には、専門家の協力が必要になります。また、欠陥住宅など建築瑕疵をめぐる裁判でも、専門家の協力が必要になります。

では、専門家にどのように協力を求めれば良いのでしょうか。医療過誤の裁判の場合、面識のない第三者の医師を訪ねて名刺を渡し、「裁判に協力してくれませんか」と依頼したところで、聞き入れてはもらえないでしょう。裁判で同業者のミスを指摘するのは、たとえそれが疑いの余地のない重大なミスだとしても、勇気のいる行為であり、このことで業界内で面倒に巻き込まれたくないと感じるものだからです。

専門性の高い分野の裁判に、十分な証拠がないまま臨んだとしても、過失や建築瑕疵などが認められず、完全敗訴するか、「説明義務違反」といった理由で、ごく一部勝訴にとどまり、スズメの涙程度の賠償しか得られない結果に終わります。

私の場合、意見や見解を求めて相談する専門家は、以前からの知人であったり、その知人に紹介してもらった人です。直接、間接に面識があるので協力の依頼もしやすくなります。つまり、証拠を集めてくる力とは広い人脈です。もっとも、仕事をする上で人脈がものをいうのは、どの仕事でも同じでしょう。受験勉強でも、孤独に勉強している人よりも、多くの仲間を作り、試験の傾向についての情報を交換している人の方が有利です。

人脈は、一朝一夕には広がりません。一般的には、長期間弁護士業に従事し、異業種の方と積極的にお付き合いをした方が人脈は広がりますし、また、この地域に地縁や血縁がある人の方が人脈を広げやすく、裁判で協力してくれる専門家も探しやすいでしょう。

一方、人脈に頼らなくても獲得できる証拠としては、DNA鑑定や筆跡鑑定の結果があります。DNA鑑定は技術進歩で精度が高まったことから、積極的に活用されています。一方、筆跡鑑定では鑑定者によって結論が異なることもあるので、精度の高さに実績のある鑑定者を選ぶ必要があり、費用対効果を考えれば、気軽には利用できません。