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北海道経済 連載記事

2021年7月号

第136回 司法試験の「国・数・英」

法律にはそれぞれ立法目的があるから、法律にも「個性」「特徴」がある。そのため法律を習得する際も、人によって「得意な法律」「不得意な法律」がある。今回の法律放談では、小林史人弁護士が自らの経験に基づく独自の視点で主要な法律の特徴を説明する。 (聞き手=本誌編集部)

司法試験に合格するためには、いわゆる「六法」を学んで、習得しなければなりません。それは司法試験制度が変わった今も、変わる前も同じです。六法とは憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法を指します。そのうち、憲法、民法、刑法は基本三法と呼ばれています。それぞれ個性・特徴があるため、人によって得意不得意があります。

学校の科目に例えれば、憲法は国語、特に現代文に似ています。現代文の試験では知識よりもセンス・才能です。教科書に出てくる文章を何回も読んでも、テストの点数が取れない人は取れません。逆に、うまく回答できる人は、あまり努力しなくても高得点を取ることができます。司法試験で憲法の問題を解く際には、出題者と同じ感覚になれるかどうか、いわば「憲法のセンス」が備わっているかが得点を左右するカギになります。努力はあまり関係ありません。

刑法では数学、特に証明問題を解くような論理構成力が求められます。数学で「三段論法」という証明の手法を学びますが、刑法の問題を解くには三段では済まない複雑な論述が必要になる場合もあります。概して法律学は論理的思考が求められ、数学が得意な人は、法律学に向いています。刑法は、論理的思考力を求められる傾向が一番強く、数学が得意な人は刑法も得意であり、司法試験にも向いているというのが私の持論です。

民法は英語に似ています。民法は憲法や刑法と比較して条文が多く、論点も多いので、習得するのに時間を要します。勉強量に比例して実力がつくので、努力が実を結びます。この点で、英語学習と共通すると思っています。また、憲法と刑法が国家と国民の間の関係を規律するのに対し、民法は私人間の関係を規律します。国家権力による人権制限には厳密な理由付けが必要ですが、私人間では私的自治といって、私人間の義務と権利は当事者間の合意で自由に規律できるとの大原則があるので、合意が常識的であれば足り、厳密な理由付けは必要ありません。したがって、民法は難しくありませんが、量は多いので、あとは努力の問題です。憲法や刑法が苦手だった私は、民法やその他の努力系の科目で劣勢を挽回していました。

弁護士業で参照する機会が多いのは民法です。受験の際には苦しめられた憲法ですが、弁護士業で憲法を参照するのは、最高裁に上告したごく少数の事件に限られます。

弁護士になってからも勉強が必要です。新法が次々と登場し、既存の法律も改正され、新しい判例も出ますから、研修会や専門書籍で最新の情報を蓄える必要があります。ちなみに某司法試験予備校から出版されている受験用の択一六法は、よくできており、改正法も過不足なくフォローしている良本と思います。

法曹、学者、学生の中には、法律そのものが好きという人もいるようですが、数学が苦手だった私は法律学には向いておらず、そういう感覚はありません。弁護士は、判官びいきを仕事としてできるので、それは自分に向いており、そのために苦手な法律学を身につけたという感じです。