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北海道経済 連載記事

2021年6月号

第135回 有能な弁護士、無能な弁護士②

前回に引き続き、弁護士の能力が反映されにくい、極論すれば、弁護士が無能であっても結論が変わらない事例を紹介する。 (聞き手=本誌編集部)

家事事件では「法は家庭に入らず」という法格言があり、特に離婚や親権者・監護権者の指定、別居している子の引渡し、子との面会交流等、直接的には金銭のやり取りが絡まない事件では、子の意思が重要視され、幼少で子が意思表示できない時は、現状維持が原則となります。

このような子どもが絡んだ夫婦間の紛争は、お金のやり取りで解決できず、ある意味、財産問題よりも切実であり、認めるか認めないか、オールオアナッシングの結論しか出ないので、和解が困難で、両当事者納得しての解決はまれです。

まず、親権者、監護権者の指定については、現在、子どもを養育している側が、その養育環境に問題がない限り、親権者・監護権者として指定される、つまり、子どもを連れて別居した側(監護親)が親権・監護権を獲得できる運用のため、子どもを連れて行かれた側(非監護親)、特に非監護親が夫・父親の場合は、親権・監護権を獲得することは、ほぼ絶望的な状況となります。子を連れ去られた時点ですでに手遅れであり、「連れ去った者勝ち」なのが現状です。

妻が身勝手な都合で別居した場合でも同じです。夫が自力で子を連れ戻すと妻から「子の引き渡し」を申し立てられ、これに屈することになり、「未成年者誘拐罪」に問われることすらあります。

さらに、夫は妻から婚姻費用(生活費)を請求され、離婚すれば子の親権を喪失してしまいます。

次に、面会交流についても、監護親が面会交流を理由なく拒んだ場合、裁判所が採用する面会交流の実施頻度は月1回2時間程度なので、突然、子どもに会えなくなってしまった非監護親にとっては、到底納得できない状況になります。

非監護親はまさに「履んだり蹴ったり」です。

これらの運用は被監護親側の代理人弁護士が家事事件を専門としていても、裁判官出身の弁護士(ヤメ判)であっても、弁護士会で要職についていても変わりません。そのため、監護親側の代理人弁護士、特に監護親が妻・母親の場合は、特別なことをしなくても、有能でなくても、極論すれば無能であっても、勝利を収めることができます。

私は、弁護士業で食べていますから、事件の依頼が来ないと困りますが、非監護親、特に非監護親である夫・父親からの、親権・監護権の獲得や、面会交流実施の依頼は、事件処理に最もストレスを感じます。前記の運用について、依頼者に説明して納得を得ることが難しいからです。

少なくとも現時点では、弁護士に依頼してもしなくても、連れて行った者勝ち、面会は実施出来るようになっても月1回2時間なので、非監護親、特に夫・父親が弁護士に依頼する意味は、裁判所に一緒に行ってもらうことくらいになります。依頼者も何のためにカネを払って弁護士に依頼したのか分からす、大いに不満でしょう。依頼された弁護士としても、前記運用で親権者を指定し、面会交流を実施することを受け入れざるを得ず、それで納得してくれと説得する非常につらい役回りとなります。せめて、言いたいことを弁護士を介さずに言うという意味で、弁護士に依頼しない方が良いかも知れません。