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北海道経済 連載記事

2021年4月号

第133回 地方に不利な司法試験

コロナの影響を受けながらも開催された昨年の司法試験の結果が発表された。法科大学院別のランキングでは東京と関西圏の有名校が上位を独占。地方に在住しながら法曹を目指す人にとって、司法試験は一段と狭き門になっている。今回の法律放談は、大都市圏と地方の「受験格差」に注目する。(聞き手=本誌編集部)

2020年の司法試験の結果が発表されました。法科大学院別の合格者数ランキングでは、東京大が126人で1位でした。前年1位となった慶応大学は125人で僅差の2位。以下、京都大、中央大、一橋、早稲田大学が続いています。

実は「最も優秀な法曹養成機関」は著名な大学が設立した法科大学院ではありません。予備試験を経由して司法試験に合格した人は378人。予備試験組を加えると、結局、東京大が1位になります。偏差値どおりの結果になるのです。

予備試験合格者を含めると、司法試験合格者ランキングの上位は東京と関西圏の国立大と有名私大の独占が顕著になります。東京・関西圏以外で最高だったのは東北大の11位で、以下、名古屋大、九州大が続いています。大都市圏有利の構図がますます鮮明になりました。

司法試験のしくみを考えれば、これは当然の結果です。司法試験の問題は司法試験考査委員を務める大学教授によって作成されますが、その大半は東京や関西の有名大学に勤務しています。北海道大学など地方の大学の教員が参加することもありますが、少数派です。5年ほど前に発覚した明治大学教授による教え子への試験問題の漏えいは極端な例ですが、大学教授が日頃から関心を持ち、講義で取り上げる分野から問題を出すのは自然な行動でしょう。このため私が司法浪人だったころには、考査委員を務める他の大学の教授の講義に潜り込んで情報収集していました。たとえ潜りでも熱心に講義に出席する人が増えるのは教授にとってもうれしいはずで、見つかってつまみ出されたことは一度もありません。それどころか、合格して挨拶に行ったら、潜りである私に「あなたは貴重な人だ」と言ってくれました。地方在住の人にとって、こうした受験対策は非常に困難でしょう。

もっとも、これは司法試験に限った話ではありません。大学受験でも、旭川にいるよりも札幌に、札幌よりも東京にいた方が情報が入ってきます。「自分次第」とよく言いますが、同じ学力なら試験の傾向、解き方、教材、勉強方法などに関する情報がたやすく入手できる大都市圏のほうが合格率が高まることは言うまでもありません。大学を卒業したあとの就職活動でも同じことが言えます。さて、旧司法試験と新司法試験の大きな違いの一つが、回数制限です。現在は法科大学院修了、または司法試験予備試験の合格から「5年間で5回」まで司法試験を受けることができます。この上限を過ぎると、もう一度法科大学院入学か予備試験挑戦からやり直さなければなりません。2014年までは「5年間で3回」でしたが、これではあまりに厳しいとの声を受けて緩和されました。

合格率が1〜2%という極端に狭き門だった旧司法試験を受けた私には、回数制限は余計なお世話だと思います。何回も不合格を続けて、結局合格できずに終わっても、本人が考えた上で選んだ道なのですから、周囲があれこれ言ったり、連続受験を妨げたりするのは余計なお世話でしょう。