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北海道経済 連載記事

2020年9月号

第126回 世襲弁護士が少ない理由

企業の経営者、医師などと比較して、世襲が難しいのが弁護士業界。実際、親の跡継ぎに成功した人は失敗した人より少数派だ。今回の法律放談では、世襲が難しい理由と世襲のメリット、デメリットを考える。(聞き手=本誌編集部)

旭川の経済界を見渡せば、多くの企業では社長の子息が次の社長になっています。医療機関でも、子が親の跡を継いで医者になるケースが少なくありません。息子がいない場合、娘婿に跡を継がせることもあります。今のご時世、新規に起業するのは大変で、継げる「跡」があるなら継ぐのが賢明かもしれません。

親子2代の弁護士もいますが、他の業界に比べると世襲は困難です。

ちなみに、夫婦や兄弟、兄妹の両方が弁護士として活動している家族も見かけます。また、妻が夫より先に司法試験に合格したり、弟や妹が兄より先に合格することがあり、その場合、大抵、夫や兄は合格しないで終わります。それでも合格する夫や兄は相当な精神力の持ち主です。余談ですが、私は受験時代に、父や母、弟も司法試験を受験して1回で合格し、私だけ不合格となる夢を見て、夢の中とはいえ、甚大な精神的衝撃を受けたことがあります。現実ならば、立ち直ることはできなかったでしょう。

弁護士の場合、世襲が難しいのは司法試験の合格率が低かったためです。国家試験ですから世襲か否かで採点上での有利不利はありません。医師の国家試験よりも合格率が低いので、医師よりも世襲が困難なのです。

私の場合、一族郎党に弁護士はいません。先祖は明治時代に北海道に渡り、道内の僻地で生活していました。私の親も旭川に出てきたものの、違う分野の仕事に就いていました。弁護士を志したのは親の影響ではなく、私が高校2年生のときに北海道知事に当選した横路さんが弁護士出身だったことがきっかけです。

弁護士に限らず、世襲のメリットは、親の人脈・顧客を引き継ぎやすいことですが、現在では弁護士も増え、顧客も弁護士を選びますから、そう簡単には引き継げないようです。一方、世襲のデメリットは、早いうちから司法試験受験を意識させられ、受験開始後も早期に合格しないと精神的に追い込まれやすいことです。私の場合はそのようなプレッシャーは小さかったのですが、身近に法曹関係者がいなかったために受験勉強は非効率的でした。

法律の教科書の中には、そもそも法律学とは何か、その法律が制定されるまでの歴史や法律の背景にある抽象的な理論が詳細に書かれているものもあり、学者になるためにはそうした背景の知識も大切でしょうが、実務家になるためにはあまり関係ありません。そのような勉強に時間を割くより、法律事務所でアルバイトした方が、法律が実務でどのように使われているのかがわかるのでメリハリをつけて受験勉強できるようになると思います。世襲の場合は身近に実務家がいますので、無駄を省いて、効率的に勉強を進めることができるメリットがあるはずです。

さて、ここまでの話は旧司法試験を受けた私個人の体験に基づくものです。ロースクールを中核とする現在の法曹養成制度では、司法試験の合格率は上昇しているので、弁護士の子息が司法試験に合格する確率は上昇していると思います。

ただし、法的サービスへの需要の地域的な偏りを考えれば、地方では、親の跡を継ぐという意味での世襲は増えず、東京や札幌といった都市部で弁護士登録する人が多くなるのではないかと思います。