スイシーダ

1.今日も自殺日和り


 時計は午後5時を過ぎた。
 石黒貫一は通りに出て、大きく背伸びした。後ろを見上げ、長年勤めた会社に手を振り、別れのあいさつ。
 年は60越えてるし、頭は薄くなり腹も出た、年金の手続きも終えた。明日からは、早起きと無縁の生活になるのだ。
 空は秋めいて来た。夕暮れの渋谷の坂を歩きながら、いつもより遠回りしようと思った。
 匂いに誘われ、ラーメン屋に入った。暖簾をくぐり、先週も来た店と知った。まだ遠回りの道に入っていない。
 軽く腹が満ちて、また街を歩いた。
 ふと、見慣れぬ看板に足が止まった。
「ストリップ・・・?」
 雑居ビルの地下に向かう階段の前に、古めかしい看板がある。道路一本違うだけで、石黒の知らない世界があった。
「こんな所にあったとは」
 ストリップ劇場は、かつては日本の津々浦々にあった。しかし、今は絶滅危惧が言われる業界のひとつ。
 おれと同じか・・・
 石黒は階段を降りて行った。

 すすぼけた空調の臭い、ややひずんだ音楽の中、薄暗いステージで股を開く女。それを見つめる男たち・・・
 いい感じだ、と石黒は思った。
 観客の年齢層を見れば、60過ぎた石黒でも若手の方か。仲間の輪に帰って来たような気分だ。
 石黒は壁に背を付け、部屋の端で見ていた。客席は八畳間をふたつ合わせた広さ、壁の端でもステージから5メートルと無い。
 ステージの女が立ち上がり、まばらな拍手があった。どうやら、終わったよう。
 照明が消えて、場内は暗闇に近くなった。
 ジャー、と音がして、横のドアが開いた。石黒がいたのは、トイレの横だった。
「こんな遠くで、もっと近くに行かんと」
 出て来た爺さん袖をひかれ、ステージ下の席に座った。
「さあ、いよいよ小島マリア嬢の登場です」
 気の抜けたアナウンスがあり、音楽が変わった。ライトが点き、一瞬目がくらんだ。
 若い女がステージ中央に立った。
 石黒の目に若いと言うのは、30から40くらいの年齢だ。20代より下は幼い印象になる。
 小島マリアは2度ほどポーズをとると、踊りを止めた。ぽいぽい、衣装を捨てるように脱いだ。右手にカミソリを持ち、高く掲げた。
「あたしのマン毛、欲しい人?」
 はーいはーい、と客席から次々手と声が上がった。
 リストバンドを残して全裸のマリアは、ステージの客席よりに股を開いてしゃがむ。股の毛をつまんで、カミソリでプツンと切る。
 毛をもらい、客の男はうれしそう。
 マリアは順に移動しつつ、毛を客に渡す。そして、ついに石黒の前に来た。
「おじさんも、欲しい?」
「うん・・・しかし」
 石黒はマリアの股間を見た。毛の残りは無いように見えた、土手はつるつるだ。
「ほれ、そこに一本残ってるよ」
 となりの爺さんが指差した。石黒はのぞき込む。と、おまんこのビラと肛門の間に、短いのが生えていた。
 指先で毛をつまみ、ちょいと引っ張る。マリアがカミソリで根元をちょんと切った。
「これにて売り切れでーす。つるつるーっ、つるつるーっ」
 マリアは立ち上がり、Y字バランスで無毛の股を見せつけた。拍手が起きる。石黒も毛を手に、拍手した。
「それでは・・・みなさん、さようなら」
 力の抜けた笑みをうかべ、マリアはカミソリを自身の首にあてた。そして、一気に引いた。
 え・・・石黒は絶句した。
 マリアの首に横一文字の赤いスジが浮き、そこから縦に赤いものが流れ出た。たちまち乳房を越え、へそまで達した。
 静まりかえる客席、音楽が何事も起きてないかのように続いている。
 マリアは脱力して腰を落とし、音も無く身を横たえた。赤い液体がステージに広がっていく。
 これは手品じゃない!
 石黒はステージに上がり、マリアの首に手をのばす。皮膚をつまみ、切り傷の上下を合わせて押さえた。
「救急車、救急車を呼べーっ!」

 石黒は救急車に乗り、病院まで付き合うはめになった。
 深夜の廊下、長いすに座って待つ。若い医師が出て来て、状況を告げた。
「傷は浅く、簡単な縫合で済みました。3日か4日で抜糸できます。全治2週間程度の負傷ですね。でも、あと数ミリ深く切れてると、頸動脈や気管が損傷して致命傷でした。今日は帰りますか、それとも入院しますか?」
「本人に聞いて下さい」
 命の心配は無いらしい。しかし、親族ではない、と石黒は強調した。
 警察が来て、事情聴取を受けた。
「これが普通に路上であれば、人命救助で表彰ものですが。申請しておきましょうか?」
「いえ、けっこうです」
 手を振り、表彰は辞退した。背広の袖口が黒い、ベットリ血が付いてついた。
 時計は12時を過ぎ、深夜になっていた。ちょっと遠回りのはずが、とんでもない寄り道になった。

 翌朝、石黒は汚れた上着をクリーニングに出した。
 ノーネクタイのラフな服で病院へ行く。病室を訪ねると、名札は小島麻里とある。これが本名のようだ。
 ベッドの背を起こし、マリアは呆然と窓の外を見ていた。首の包帯が痛々しい。
「おじさん、誰?」
「昨日、最後の一本をもらった客だよ」
 透明のパスケースに短い毛を入れておいた。見せると、マリアは思い出した。
「ああ、あたしの首を押さえてくれた人だ」
 口元が片方だけ笑みを浮かべる。
 失神してると思っていたが、ちゃんと意識はあったようだ。反応できなかっただけみたい。
「てへ、また死ねなかったのね。もう、やんなっちゃう」
 マリアは手を上げた。リストバンドが無いので、手首の傷跡がわかった。
 部屋の隅に、大型のキャスターバッグが3個も並んでいる。けっこう使い込んである物ばかり。
「それは、服とか衣装とか入ってる。さっき届いたの、クビになっちゃった。ステージ汚したし、小屋に迷惑かけたし」
 はあ、マリアはため息をついた。
「傷は軽いし、いつでも退院できると聞いたよ。わたしはヒマなんだ。家まで送るよ」
 石黒が言うと、マリアは首を振った。
「家は楽屋よ、ストリッパーだもん。小屋から小屋へ流れて渡って、楽屋に寝泊まりして、舞台に出てた。今日からホームレスなのね、あたし」
「ホームレス・・・」
 また、石黒は絶句してしまった。
 午後になり、マリアは退院を決意した。

 石黒はマリアとの同居に同意した。次の仕事と家が見つかるまで、それが条件だ。
 渋谷から東横線に乗り、祐天寺で降りた。駅から坂を歩いて10分、蛇崩交差点の近くに石黒のアパートはある。都心から近く、それを最優先して選んだ物件だ。
「わあ、きれいにしてるね」
 マリアは部屋を見て言った。石黒のアパートは2LDK、一人で住むには広い。会社を辞める前に大掃除したばかりで、物は少なかった。
 ここで女と暮らすのは初めてではない。結婚を前提に同居した事が何度かあった。でも、1週間ほどで、皆出て行った。ある日、会社から帰ると、荷物をまとめて居なくなっていた。今度も同じだろう、そう思った。
「わあ、すごい。お酒がいっぱい」
 箱のビールやワインを見つけ、マリアが声を上げた。
「お中元とお歳暮が貯まったんだ。なぜか、おれは大酒飲みと思われてたらしくて」
「いやいや、石さんは飲兵衛の顔してるよ」
 マリアは部屋を探る。ガラス戸に並べたコレクションに目を留めた。
「これは?」
「万年筆だ。わたしの趣味でね、古今和洋を集めた。博物館が開けるほどじゃないけど」
 ふーん、マリアは鼻歌で見つめ続けた。
「女が興味を持つとは、珍しい事だ」
「いえ、ね。あたしの子供が、もう中学生・・・いえ、高校生か。こんなの欲しがる年頃かなあ、と思って」
「子供がいるの?」
 てへへっ、マリアは笑った。
「18の時に産んで、親にあずけて、仕事は風俗を渡り歩いて、ストリッパーで旅に出て・・・会いに行くのは年に1度か2度よ。母親失格なのよね」
 また、石黒は絶句。
「わたしに無い物を持ってるんだね」
 石黒は結婚していない。当然、子供を持った事も無い。このままなら、寂しい独居老人になるはず。
 封の開いたウイスキーの瓶を見つけ、マリアはグラスをふたつ取り出した。
「傷に障るよ」
 石黒の忠告も、マリアは笑顔でやり過ごす。
「お世話になる間、妾でも愛人でもやりますから、よろしくね」
 ぐいっ、と一息にあおる。グラスを手にしたまま、石黒の肩に身をあずけて来た。
「おいおい、明るいうちから何をしようと言うんだ」
「もちろん、ナニをするのよ」
 石黒は窓を見た。日の入りが早くなったとて、まだまだ日没は遠い時刻だ。
 と、そのスキに、マリアの手がズボンの中に入っていた。ジッパーが下ろされ、陰嚢が握られている。
 こうなっては、もう男は抗えない。チンチンはマリアの口の中にあった。
 ズキン、尻から脳天へ電気が走る。たちまちチンチンは勃起していた。体中の血がそこに集まり、手足から力が抜けた。
 うっ、と息が詰まる。どくんどくん、下半身が脈動した。
 ちゅうちゅう、マリアはチンチンを吸う。口から放すと、チンチンはだらり脱力して垂れた。
「おいしゅうございました」
 ごくり、包帯でくるまれた喉を鳴らした。マリアはウイスキーを口にして、ぐぶぐぶ口腔をゆすぐ。


2.あの日も自殺だった


 会社を辞めてヒマができた。いつでもやらせてくれる女がいる。
 ならば、朝から晩まで、日がな一日、おまんこ三昧、セックス中毒な日々も悪くない。
 石黒はマリアとやり続けた。
 ほとんどの場合、上になるのはマリア。若い女のリードに身を任せれば、石黒の体力は回数の割に消耗しなかった。
 一休み入れて、シャワーを一緒に浴びた。抜糸してないマリアは湯船に入れない。
 ぬる湯を浴びつつ、鏡に向かう。湯滴にかすむガラスに、爺いと若い女が映っていた。
「うーむ、不釣り合いだ。こんなくそ爺いと、若い美女が裸で」
「あたしゃ30過ぎてる、若くないよ」
「おれには、娘も同然の年だよ」
 目鼻立ちのくっきりした洋風美人、芸名のマリアは伊達じゃない。不細工な親父顔の石黒は、勤めていた頃から、仲間内で腹黒とあだ名されていた。美女と野獣以下の組み合わせだ。
 浴室から出て、裸のままカップ麺を食べた。
「徳川家康は60過ぎても子供作ったし、最後の側室は十代前半のピチピチギャルよ。淫行条例違反だね」
「天下人に法律は関係無いさ」
 空になったカップをゴミ箱に捨て、またベッドで肌を合わせた。
「ね、石さんは、なぜ会社を辞めたの?」
「顧客が死んだんだ、首つり自殺だったよ」
「あやあ、自殺?」
 石黒は公認会計事務所に勤めていた。顧客は中小から零細な企業が主だ。いつからか、石黒は倒産案件を処理する事が多くなった。言わば、法人の葬儀を担当する係になったようなもの。一代で財を成し、そして破滅する企業家の末期を看取るのだ。夏のある日、石黒は処理の終了を告げに元企業家を訪ねた。1年前は年収1億を豪語した人が、今は家賃3万のアパートに住んでいた。石黒が鍵のかかっていない戸を開けると、彼は部屋の中ほどで首を吊っていた。
「もう・・・付き合ってられない・・・そう思って、辞めた」
「それで、あたしを助けてくれたの?」
「どうかな」
 ビールの箱の山から発掘した赤まむしドリンクを飲む。ラベルを見て、賞味期限が数日過ぎてると気付いた。数日くらいなら問題無し、さらに飲んだ。
 かあっ、顔が熱くなる。
「さあ、やるぞ」
 石黒はマリアの顔にまたがり、チンチンを押しつけた。両足を抱えて、無毛の股ぐらに顔を埋める。シックスナインの体位だ。

 久しぶりの外出。マリアの首の抜糸だった。
 薄い包帯になった首筋、マリアは鏡に向かってポーズを取る。
 会計を終え、病院の玄関で石黒の腕に抱きつくマリア。やわらかな乳房が心地良い。
「さあ、今日は帰りがけにラブホでやろー」
「スーパーで買い物だよ。冷蔵庫が空になった」
 ぶう、マリアは口を尖らした。
 ピロロロ・・・携帯電話が鳴った。マリアのは最新型の大画面スマホだ。
「はい、マリアでーす。ええ、お元気してましたあ・・・え、そんな話しですかあ」
 石黒を横に置き、マリアは話し込む。漏れる声からして、通話の相手は男のようだ。と、話しを区切り、マリアが石黒を向いた。
「なんか、仕事の話しでさ。これから会えるか、だって」
「良い事だ、行ってらっしゃい」
 石黒の了解を得て、またマリアはスマホに向かう。
 マリアを駅まで送り、石黒は駅前のスーパーに寄った。フードコートでハンバーガーを食い、一人でのんびり過ごした。大きな袋を両手に、肩をいからせてアパートに着くと、すでに夕方だった。
 その夜、マリアは帰らなかった。
 こんな爺い、もう飽きたかな・・・石黒は数日ぶりに一人で寝た。
 夢を見た・・・会社の経営に行き詰まり、失踪の果て、水死体で発見された顧客・・・その顔は石黒自身だ!
 ひいっ、声を上げて目覚めた。トイレに立ち、窓から夜明けの街を見た。
 まだ、マリアは帰って来ない。
 一人で喫茶店に入り、モーニングセットを取った。新聞を開くと、つい失踪者と葬儀の欄に目が行った。
 会社は辞めても、なかなか心が離れない。習慣が直らない。
 コンビニで弁当を買い、アパートにもどる。マリアは帰ってない。
 午後は図書館に出かけた。定年後は田舎暮らしがしたかった、と思い出した。その関係の本を探した。
 夕刻、ラーメンを食べて帰ると、もう暗くなっていた。
 部屋は静かだった。たった一人で過ごせば、退職後の孤独を感じた。
 まだ、マリアは帰らない。

 どんどん・・・どんどん・・・ドアを叩く音に目が覚めた。
 時計は午前6時、朝日が窓から差し込んでいた。
 石黒が玄関の戸を開くと、マリアがいた。手に提げた袋はコンビニのパック寿司だ。
「撮るぞっ、て急に監督が言い出して、すぐスタジオに入ったのよ」
「何をとると?」
「AVだよ。前にも出た事があったし、ギャラの半分を即金でもらえるゆー事で、やって来た」
「えーぶい?」
 AVとはアダルトビデオの事。いわゆる成人向けのエロでポルノなビデオだ。
「この傷痕が薄くなる前にやろう、て事でさあ」
 マリアは首の傷を指さし、転んでもタダでは起きぬ根性を示した。
 実際には、出演予定の女優が体調を崩して、その代役で声がかかったらしい。なにせ、それはSMを含むハードなポルノだった。

 シーン1、マリアは太い縄で亀甲に縛られている。黒いレザースーツの女王様が罵りながら、ムチとロウソクでマリアを責める。痛みに悲鳴を上げ、ついに失禁するマリア・・・
 シーン2、マリアは縛られたまま、座禅転がしで責められる。女王様が顔にまたがり、聖水をぶちかける。さらに黄金をひり出し、マリアの体に塗りたくる。巨大な浣腸器を肛門に入れられ、マリアの腹がふくれる。苦悶するマリアは、ついに尻から・・・をまき散らす。
 シーン3,20人ばかりの男たちが縛られたマリアを取り囲む。後ろから前から、同時に2本も3本もチンチンをぶち込まれる。頭から足の先まで、男たちの汁でベトベトだ。見ていた女王様は興奮してオナニー。気付いた男たちは、女王様も輪姦してしまう。

「・・・こんな感じのビデオになるはずよ。久しぶりだったから、やあ疲れた」
「何でも・・・稼ぐと言う事は、楽なものじゃないね」
 石黒は返事に窮していた。
 昔、そんなビデオを見た事はあった。しかし、ついさっきまで、別世界の出来事と思っていた。
「石さんも、あたしを縛って浣腸してみる?」
「い・・・いや、おれは・・・しごくノーマルだからして・・・」
「今の言い方・・・してみたい、と思ったでしょ」
 イエスもノーも正解であり、不正解でもある。石黒の心の内は揺れていた。
 テーブルには厚みのある封筒があった。マリアが得た今回のギャラだ。
 ピロロロ・・・携帯が鳴った。マリアはスマホを出した。
「あっ、監督・・・え、なに?」
 マリアの顔が歪んだ。悪い報せのよう。スマホを切り、はあと息をついた。
 事情を話してくれた。
 マリアが代役をした女優が、睡眠薬などを大量に飲んで服毒自殺をしたらしい。ビデオ制作の事務所にも、警察が事情聴取で現れた。安全のため、しばらくは事務所に来ないように、との注意だった。
 しかし、まだギャラは半分しかもらっていない。残りがパアになる可能性が出て来た。いや、前金で半分をもらっておいて正解だった・・・そう思う事にした。


3.自殺の季節


 二人の生活は1ヶ月以上続いていた。石黒には異例のロングランだ。
 さすがにエッチの回数は減った。ただ、素肌を合わせて寝るのは心地良い。
 マリアが誘うので、石黒は夜の街に出た。二人で近所のカラオケスナックに入った。店内にステージがあり、たまにライブもある店だ。
 カウンターの端に席を取った。
 トイレに立ち、石黒は内装の汚れを見た。つい経営状況を診断して、まだ仕事のクセが抜けてない自分に気付いた。
 席にもどると、マリアはステージで歌っていた。スポットライトを浴びて身をくねらせ、気持ち良さそうだ。
 若い男が乱入して、デュエットで歌い続ける。男の手がマリアの腰に、そのまま3曲も歌った。
 そろそろ・・・かな。石黒はグラスを傾け、ため息をついていた。
「やあ、歌った歌った」
 マリアがマイクを置き、石黒のとなりに帰って来た。
「石さんも、さあ、何か歌おうよ」
「いや、おれは・・・」
 マリアはグラス片手に、カラオケの本を開く。静かに飲みたい石黒は、首を振って遠慮した。
「まりあちゃん、静かな店に行って、しっぽり飲もうよ」
 一緒に歌っていた男が来た。手が尻に触れてる。
「石さんも、行く?」
「いや、こんな爺いは余計だろ。若い者だけで行くと良いさ」
 むっ、マリアの口が尖る。
「そうそう、年寄りはほっといて、ぼくらだけで」
 マリアは男に肘鉄をくらわせ、カウンターの上のウイスキー瓶を手にした。
「なんだよ・・・そんな風に、あたしを見てたのかよ・・・なめんなあっ!」
 その怒りは唐突だった。
 手の瓶でカウンターの縁を叩く。次はイスのフレームパイプを叩いた。ガシャン、瓶が割れた。
 ぎっ、歯を食いしばり、マリアは夜叉のような目で石黒を睨む。美しいはずの顔が、恐ろしいほどの変わりよう。
「い・・・石の・・・石のばかやろーっ!」
 マリアは割れたガラス瓶を振り上げた。その切っ先が、マリア自身の喉に刺さった。
「えっ?」
 石黒は動けなかった。てっきり、マリアが襲いかかって来ると思っていた。
 喉から血を吹き、マリアはへたと倒れた。声も無い。

 救急搬送された先は、前回も行った病院だった。
 同じ夜勤スタッフと顔を合わせ、石黒は平身低頭した。警察も来て、またかと呆れ顔。
「とりあえず、応急の止血処置をしました。細かいガラス片が体内に残っている可能性があるので、明日に精密検査します」
 医師が言った。今度は入院確定だ。
「こんな短期間に自殺を繰り返すようでは。精神鑑定などをして、心の治療をして下さいよ」
「はい・・・」
 警官に説諭された。石黒は返す言葉も無し。ただ、聞くだけ。
 いっそ、マリアに刺されていた方が楽だった・・・胸をおさえて思った。

 翌朝、タオルなどをバッグに詰め、石黒は病院に来た。
 病室へ行くと、点滴をうけながら、マリアは眠っていた。首には頑丈なコルセットがはめられている。
 売店でパンと牛乳を買い、マリアの横顔を見ながら食べた。
 眠っている様は弥勒菩薩か、キリスト教会のマリア像のよう。あるいは、おとぎ話のオーロラ姫か。
 こんなに美人なら、子供と幸せに暮らせるだろうに。ところが、自ら不幸に飛び込むような事を繰り返す。石黒には、謎の女だ。
 昼前、レントゲン撮影でベッドごと病室を出た。ガラス片が発見されれば、そのまま再手術だ。
「麻里の母、小島妙子です」
 昼過ぎ、マリアの母親が来た。こちらは純和風な顔立ちの美人。昨夜、マリアのスマホで連絡しておいた。
 何枚もある入院の手続き書類を頼んだ。親族なら、病気の履歴も知っている。
 精神科用の書類に病歴欄があった。二十歳の頃、自殺未遂から精神病院に1年ほど入院していた、と書き込まれた。
「そう言う事か・・・」
 石黒は少し納得した。
 精神病は周期性がある、と聞いた。一度発症して治り、十年以上の平穏な時期を過ぎて、再発した。それが今の状況だろう。
 前回、1年入院している。また、1年の入院が必要かもしれない。
 入院費の事を思うと、石黒は胃に痛みを感じた。貧乏神を囲い込んだのか、と後悔の念が出た。
 マリアを乗せて、ベッドが帰って来た。手術は終わった。
 局部麻酔だったので、もう目が開いていた。
 マリアは石黒を見て笑った。母を見ると、ううう、と泣きが入った。
「ままん・・・」
「ばかね、いい大人して」
 母はやさしく叱る。その方が、心に染みる事もある。
「石黒さんは、麻里と暮らしてるそうで。何か、困った事はありますか?」
 母の目が石黒に向いた。年の近い女に見つめられ、ちょっとたじろいだ。
「いえ、別に、ありません。しいて言えば、彼女、掃除などは苦手らしくて。一人暮らしの時より、部屋がアレかなあ、と思うくらいで」
 きっ、母は娘をにらむ。
 ごめん、と手を振って返すマリア。
「わかりました。親として、きちんと掃除して、責任をとらせていただきます」
 決意を込めた目で見つめられた。石黒は抵抗できない。

 石黒と小島妙子が行ったのは、あのスナック。夕刻、開店準備中に訪問した。
 すみませんすみません、と体を折って謝る妙子。その勢いに押されたか、店主は笑顔で許してくれた。
 アパートの部屋に入ると、台所とトイレをチェック。風呂からベッドまで見た。
「なかなか、やり甲斐がありそうね。1時間・・・いえ、2時間下さい。ちゃっちゃと済ませます」
「よろしく。わたしは、ちょっと買い物して来ます」
 部屋を妙子にまかせ、石黒は街へ出た。
 駅前のスーパーに行く。無くなるであろう各種の洗剤、ウエスとゴミ袋を買った。フードコートでコーヒーを飲み、時間をつぶす。
 アパートに帰ると、まだ1時間経ってなかった。
 戸を開けて、いつもと違う匂いがした。台所のシンクが輝いている。風呂場がつるつるで、ぴかぴかだ。冷蔵庫が白い、便器も白い・・・魔法のよう。
 妙子はゴミ袋の口をむすんで閉じ、ふん、鼻息でベッドルームへ向かう。石黒も追う。
「さっきも不思議に思いました。石黒さんは、麻里と一緒に寝てる・・・んですよね?」
「だいたい、一緒に寝てます」
 石黒の答えに、妙子は首を傾げる。シングルベッドに、一つの枕。あくまで一人用の寝具だ。
「狭く・・・ありません?」
「大丈夫です。重なって寝てます、こんなふうに」
 石黒は一歩前進、妙子の背後に密着した。股間のふくらみが尻の割れ目に当たる。
「あ・・・」
 妙子は小さく声をもらした。石黒は手を肩に置き、さらに股間を押しつける。
「石黒さん、あたしは50過ぎで、もうすぐ60のお婆ちゃんで・・・」
「はい、わたしも60過ぎのお爺ちゃんです」
 石黒は自分に驚いていた。女を口説くなど何年ぶりだろう、ややセクハラ気味ではあるが。
 背後から乳房をわしづかみした。マリアより量感がある。
 スカートをたくし上げ、下着に手をもぐり込ませた。さわさわ、豊かな毛の茂りがあった。マリアが無くした物だ。
 妙子は抵抗せず、身をまかせている。
 すでにセクハラを越え、レイプになっていた。しかし、スイッチの入った男の劣情は止まらない。
 一気にスカートと下着を膝まで下げた。指を強引に股にこじ入れると、そこは湿っていた。
 こちらもズボンとパンツを下げ、堅くなったチンチンを尻に沿わせる。体重をかけて、押し倒した。
 ぬるぬる、と亀頭が肉を押し分けて入った。
 まだ、日は暮れたばかり。六十男と五十女の情事は、まだ始まったばかりだ。

 時計が12時を回った。
 どくんどくん、腰の奥から脈動が押し寄せた。
 石黒は上から身をあずける。妙子は下から手と足を背に回し、ねだるように膣を蠢かした。
「重くない?」
「いえ・・・どうせ、あたしなんか。2度結婚したけど、2度とも3年で別れた。あなたも、すぐ飽きてしまうわ」
「ちゃんと結婚まで行ったのは、すごいです。わたしなど、何度も・・・何度も、結婚前に振られて、そればかりでした」
 くす、妙子が笑みをもらした。
「男の人は、ほんとに久しぶりで・・・麻里ちゃんの気持ちが分かったわ」
 ぎくっ、石黒は胸が疼いた。これはマリアの母親なのだ。
 身を起こそうとすると、ぎゅううっ、膣が亀頭を搾るように吸い込んだ。またも、股と股が密着した。離れるに、離れられない。

 翌朝、二人は連れだって病院へ行った。
 精神神経科の検診があった。傷の治療を含め、1週間ほどの検査入院を言われた。
 石黒は帰る妙子を見送り、後ろ姿を小さくなるまで眺めた。目が尻から放せなかった。
 病室にもどると、マリアが笑っていた。
「石さん、ままんとしたでしょ」
 娘は見抜いていた。
「昨日とは打って変わって、肌の色艶が良くなっちゃって、さあ。女って、男で変わるのね」
 石黒は言葉を返せない。
「退院したら、あたしにもしてね」
 えへっ、とマリアは微笑みかける。石黒は背に汗を感じた。
 娘とやり、母ともした。一時の劣情に負けた。
 石黒は自ら退路を断ったと知った。この先、地獄の底まで、この母娘と付き合うはめになりそうだ。


4.自殺の道連れ


 マリアは予定通り1週間で退院した。
 土産は大量の薬。突発的な感情の励起を抑えるとかの薬効を聞いたが、よく分からなかった。これから、毎週通院して経過を診ると言う。
 アパートに帰り薬を飲むと、すぐマリアは眠った。睡眠薬の一種かもしれない。
 数日後、マリアのスマホが鳴った。またビデオ出演の誘い、この前とは別の会社からだ。
 金になるなら、と喜んで出かけて行った。帰って来たのは、またも三日後だった。
「今度も、えすえむとかゆーやつかい?」
「こんな体中に傷やら縫い目のある女に、普通の話しは来ないって」
 マリアは首筋の手術痕や手首の傷痕を指し、白い歯を見せた。

 シーン1、夜の街。裏路地を歩くマリア、手が禁断症状で震えている。麻薬の売人に薬をせがむが、金が無い。ゴミ箱の陰で男の物をくわえ、バックで犯される。手に入れた薬をやり、尻を出したまま恍惚とした表情で路地に座り込む。雨が降ってきた。
 シーン2、夜の街。路上で男を誘う売春婦のマリア。いかにもな風体の男たちがマリアを囲む。男の手に麻薬が、手をのばすマリア。廃ビルの片隅、男たちに輪姦されるマリア。麻薬を打って、その目はよどんでいる。
 シーン3、麻薬組織。診察台に縛りつけられ、新薬の実験台にされるマリア。何本目かの注射、失禁して意識が飛ぶ。暗い部屋、裸の男たちがマリアを囲んでいる。チンチンをねだり、おいしそうにマリアはしゃぶり続ける・・・

「こんな感じのビデオになるよ、今回は」
「薬漬けか・・・壮絶だね」
 石黒は頭をかかえた。昔、高血圧の診断を受け、しばらく薬を飲んだ。が、すぐ止めた。
 年をとってからの高血圧は、治らない病気らしい。薬は症状を抑えるだけで、治療にならない、と知った。
「出演するだけじゃなく、脚本や演出に進めば、その業界で長生きできるだろ」
 石黒の提案に、へーほー、とマリアは声を上げた。
「アンジェリーナ・ジョリーが映画監督とか、やったみたいだね」
「古くは、ウッディ・アレンやブルース・リーが、監督と脚本に主演なんてしてる」
「まず、脚本を書いて、企画の売り込みだね」
 マリアの目が輝いてる。これは薬の効果ではないはず。

 翌早朝、電話が鳴った。
 警察からの連絡である。石黒の昔の顧客、旧山崎建設の元社長、山崎金朗が事件を起こしたのだ。
 石黒は迎えのパトカーで現場に向かう。マリアは留守番に残した。
 高級住宅街に来た。高い塀に囲まれた家が建ち並んでいる。
 パトカーと装甲車が道を封鎖していた。車を降り、現場を統括する前田刑事の前に進んだ。
 現状を説明してくれた。
 山崎金朗(74才)が猟銃と日本刀で、弁護士の渡辺淳治氏の家に立てこもった。渡辺氏と家族二人を人質に、石黒貫一を呼べと要求した。窓に無線マイクを仕掛けたところ、立てこもっているのは二階の寝室。渡辺氏は怪我をしているらしい。家族は妻の三枝と娘の佐智。二人とも縛られ、身動きできない。
 専用の携帯電話をくれた。盗聴マイクとカメラ入りで、内部の様子を生中継できる。
「お願いします。あの人を、どうか、助けて下さい」
 老婆が石黒の袖にすがりついた。山崎の元妻らしい。
 装甲車の陰で、ライフルを持った狙撃隊が控えていた。猟銃に対抗して、撃ち合いの準備も怠りない。
 石黒はバリケードを越え、借りた携帯を開いて渡辺邸へ電話した。嗄れた声が出た。
「お世話になりました、石黒です。今、家の前に来ました。入りますか?」
「玄関は開いてる。一人で入って来い」
 はい、と返事して携帯を閉じた。前田刑事に手を振り、家の玄関へ進んだ。
 家の一階は弁護士事務所と車庫、住居は二階の構造。住居側の玄関から中に入った。
「そこで服を脱げ、裸になれ。二階に何も持って来るな」
 階段の上から嗄れた声が飛んで来た。
「パンツも脱ぐの?」
「それくらいは、許してやる」
 服を脱ぎつつ、思い出した。急いだので、今朝はパンツを着替えてない。臭うかもしれない、と心配になった。
 裸になり、携帯は下駄箱の上に置いた。前田刑事の思惑が外れた。
「脱ぎましたよ、上がります」
「よし、来い」
 声に従い、階段を上がる。出迎えたのは銃口だった。
 猟銃をかまえる山崎も裸だ。散弾の弾倉ベルトを肩にかけ、パンツも着けてない。黒みがかった物が股間にぶら下がっていた。
 石黒は鼻をひくつかせた。小便臭く感じた。
 銃口で背を突かれ、居間へ入る。窓はカーテンで閉め切られていた。テーブルの前に裸の男が倒れていた、渡辺弁護士だ。
 石黒と違い、筋肉質の体だ。節制して鍛錬を怠らない生活は、当時から評判だった。頭髪も豊かで、五十過ぎの年ながら、見かけは三十代だ。
 しかし、今は両手両足がX字の鎖で、四つ輪錠でつながれていた。これでは身動きならない。手足の一部が青黒く腫れあがり、床に黒いシミがある。小便ではなく、血の臭いだったようだ。
「おら、友達が来たぞ、目え覚ませ」
 山崎は床からコードスイッチを拾い、入れた。
 うわっああっ、渡辺が悲鳴で身をひねる。
 見れば、コードの先は渡辺の尻へ伸びていた。ピンクの大きなバイブレーターが尻に、肛門に刺さっている。
 山崎は悲鳴を聞いて満足したか、スイッチを切る。
 渡辺は荒い息で腹をはずませるばかりだ。少し小便を漏らしたかもしれない。
「おれは、これから自殺する。けどな、一人じゃ死なねえ。おまえら二人を道連れにせにゃ、気がおさまらんのだ」
 山崎建設が倒産したのは5年前、処理を担当したのは弁護士の渡辺と会計の石黒だった。理不尽だが、逆恨みと言うやつだ。
「こんな趣味があったとは、山崎さんがねえ」
 銃口を見るのは怖いので、渡辺の方を見る。足が折れているかもしれない。
「へっ、違うな。おれの趣味はあっちの方だ」
 山崎が居間の奥を指した。
 女が二人、裸で倒れていた。渡辺の妻と娘だ。同じように、手足を四つ輪錠で縛られて動けない様子。その近くには、服だった布切れが散乱していた。
 ずきん、石黒の股間が反応した。
「そうだ。せっかく遠くから来たんだし、あそこの女とやらせてやるよ」
「やらせて・・・て、何を?」
「もちろん、ナニだよ」
 とん、銃口が背を突いた。石黒は女たちの方へ歩く。
「住居不法侵入に、暴行傷害と監禁、ついでに強姦か・・・」
「強姦くらい、なんでい。お前らこそ、おれの会社を白昼に強姦して、家をメタメタに切り刻んだくせに!」
 議論できない、石黒は腹をくくった。
「おら、よく見ろ、渡辺。お前の友達が、お前の女を寝取るぞ」
 山崎が宣言した。またも、石黒の股間が反応する。パンツからはみ出そうに勃起していた。
 近寄って、はたと目を留めた。
 年上の女の方は、妻の三枝。年は50前か。その股間に、青黒い太い物が2本も生えている。大物のキュウリが膣と肛門に刺さっていた。
「そいつは反抗的だったから、な。ちょいとお仕置きしてやったんだ」
 へたに反抗したら、肛門に何を突っ込まれるか。石黒は自分の尻をなでた。
「これ、抜かなきゃ、ナニもできないよね」
 石黒は両手で2本のキュウリに手をかけ、ヌルヌルと抜いた。ぷう、肛門から音が出た。
 ああ・・・三枝が声をもらした。苦しかったのだろう。
 おれより太い・・・抜いたキュウリを見つめ、石黒は自分の持ち物と比較してしまった。
「では、奥さん、失礼します」
 パンツを脱ぎ、三枝の足を上にかかえ上げた。股間には密林のように黒毛が生い茂っている。そこへ屈曲位の体位で体を寄せた。
 亀頭を膣に合わせると、するりと入った。
 ひっああっああ・・・泣くような声、石黒には苦手な声だ。
「これで、強姦に関しては、山崎さんと共犯だ」
 ごんごん、腰を突き入れると、早くも高まりが来た。どっどっ、射精が身を震わせる。
「なんだ、もうかよ。早いな」
 山崎が毒づく。はあはあ、石黒は息が切れて、言葉が返せない。
「ほら、もう一匹いるぞ。そっちもやれ。今時の若いのは婆あより厚化粧して、外で何やってるか、わかりゃしねえぜ」
 石黒は腰を引き、三枝から離れた。膣から、とろりと白いものが漏れ出た。
 言われるまま、娘の佐智へ寄る。化粧のせいか、顔は幼い感じが無い。肌は若い、二十歳くらいか。その股には、皮を剥いたフランクフルトソーセージが刺さっていた。
 ソーセージを抜き、匂いをかいで、食べてみた。普通の味だ。
「うまいか?」
「ちょっと塩味かな」
 がはは、山崎が笑った。少し緊張が解けてきたかもしれない。
 身を寄せ、佐智の足をかかえ上げた。股の毛は石黒の頭ほどに薄い。亀頭を肉の合わせ目に沿わせ、ぐいと腰を入れた。
 ううっ、娘がうめいた。
 萎えかけていたチンチンが絞められ、また固くなった。ガッチリはまった。
「強姦の共犯者として、ひとつ言わせてもらうけど」
「なんだ?」
「道連れは男だけで十分、女は余計だよ」
 山崎は応えない。石黒は腰を突き入れながら、ゆっくり振り向いた。銃口は天井に向いていた。
「義経の軍勢に攻められて、木曽義仲は巴御前を落とさせ、生きる道を選ばせた」
「古い話しだ・・・しかし、今度は長持ちしてるな。やっぱり、若い方がやり良いか」
「いや、二度目だから」
 山崎は油断している。それが分かっていても、チンチンを女に入れてる状態では、他に何もできない男のサガであった。
 高まりが来た。石黒は体重をかけて娘にかぶさる。どどっどどっ、射精が頭を振るわした。
 ああ・・・娘が声を殺して泣いていた。まだ体はつながっている。
「おれたちは、あんたの会社を強姦して、切り刻んだ。見方によっては、そうだろう。でも、負債は大きかったけど、連鎖倒産はゼロに抑えた。あの時の処理で、それが小さな誇りさ」
「連鎖・・・倒産・・・つまり、道連れか」
 山崎はうつむき、首を振る。
「よし、女は出してやろう」
 山崎は鍵を出し、四つ輪錠の足側を外した。石黒は佐智の尻を押し、チンチンを外した。ぴゅっ、白い飛沫がはねた。
 女たちは足が自由になった。石黒が支えて立たせてやる。
「服を」
「だめだ、その格好で出て行け。ここにいて、おれたちと一緒に死ぬか。恥をさらして、ここを出るか。どちらか選ばせてやる」
 石黒は女たちの背を押す。その耳元にささやいた。
「玄関に行けば、わたしの服がある。それを着て、外に出るんだ」
 女たちは頷く、渋々の顔だ。その内股、白い滴が一筋垂れた。
 ぱん、尻をたたいて、階段へ押し出した。
「あっ、連絡を」
「リダイヤルすれば、刑事が出る」
 山崎の言に従い、電話機を取った。すぐ前田刑事が出た。
「女を二人、出します。婦警の出迎えを、二人くらいお願いします。男はダメですよ、男は」
 受話器を置き、石黒は深呼吸した。どこかの窓にマイクがある。前田刑事も、だいたいの事は知っているだろう。強姦は余計だったが、最低限の事はできた。
 山崎はカーテンをめくり、外を見ていた。
 三人の婦警がバリケードを越えて来た。一人は少し背が高い、男の変装かもしれない。
 玄関先で、背広とシャツを羽織った二人と合流した。三人が二人を密着して囲み、ゆっくりバリケードへと向かった。
「ちっ、お前の服があったか。ま、いい。これで男だけだ、決着をつけるぞ」
 ガチャリ、山崎は猟銃の撃鉄を起こした。
 銃口が渡辺を狙う。次いで、石黒を狙った。
 とっちが先に撃たれるか・・・
 ガチャン、ガラスが割れる音。
 どの窓かと見渡していると、床に何か転がって来た。
 パン、破裂音と閃光!
 石黒は目がくらみ、つまづいて倒れた。ガシャンガシャン、次々とガラスが割られ、どたどた、足音が入って来た。
 待機していた特殊部隊の突入だ。
 誰かの靴が石黒の背を蹴った。足も踏まれた。
 女が外に出るのを待っていたのだろう。男なら、多少蹴飛ばしても問題無しか。
 バン・・・銃声が響いた。

 夕刻、石黒はパトカーに送られ、アパートに帰った。
 あそこでの事は口外無用、と念を押された。無論、強姦の事を言いふらせるはずも無い。
「石さん、すごいね。テレビに出てるよ」
 マリアが煎餅をかじりながら、石黒をほめた。
 ジリリリ、電話が鳴った。出ると、マスコミらしい。どこで番号を調べたのか。
「おかけになった電話番号は、ただ今使われておりません」
 適当に答えた。コードを抜いて、受話器を置いた。


5.劇場型自殺


 今夜も、マリアは騎上位で腰と胸を振る。
 石黒は揺れるベッドに身をまかせ、腹の上で踊る女を見上げるだけ。アメノウズメの命の踊りを連想した。
 はあ、と息を抜いて、マリアが身を倒してきた。どしっ、重い乳房が胸に当たった。
「企画、持ち込んだけど、ダメだった」
「一度であきらめたら、アマチュアのお遊びだよ。プロなら、企画は山のようにストックしておくもんだ」
 うーん、マリアは諦めきれない切れない様子。それなりに自信があったのだろう、根拠と裏付けは無くとも。
 石黒は腰を突き上げた。
「次を考えて、何度でも持ち込め。諦めたら、そこでお終いだ」
 おっぱいを両手でつかみ、ぐいと押し上げる。肉に指がめり込んで、レモン絞り器にも見えた。
「思い付いた・・・エクスタシー占い師!」
「占い?」
「エッチして、絶頂に達すると、相手の男の過去や未来が見える占い師よ。男が隠してきた秘密も暴いちゃうの」
「実は、強姦殺人の常習者だった・・・とか」
 マリアの腰が止まった。あ・・・口も開いたまま止まった。

 今日はマリアの定期検診、精神神経科を訪ねた。石黒も同行した。
「お薬、ちゃんと飲んでますか?」
「はーい」
 マリアの声は、いつもより上ずり気味。もちろん、医者も見抜いているだろう。
 どっさり新しい薬が出た。
 会計を終えて、マリアが言った。
「あたし、これから監督に会いに行く。昨日のアイディアを売り込みよ」
「そう、行ってらっしゃい」
 病院の玄関を出ると、空気がひんやりとしていた。
 自信満々の後ろ姿を見送り、石黒は首を振った。
「なんだかんだで、またSMや輪姦になったりして・・・」
 年末が近い。なんとかセールとか、色々な飾り付けて街が華やかになる季節。

 午後、石黒は渡辺弁護士宅を訪ねた。
 あの家は、すべて元通りになっていた。渡辺は病院を1ヶ月ほどで退院し、今は自宅療養をしている。
「山崎さんは、色んな物を道連れにして行きました」
 渡辺は静かに語った。
 警官隊が突入した時、山崎は銃で自殺した。あの事件で死んだのは、彼一人だ。
 しかし、渡辺は両足を膝下で切断した。手当が遅れたため、組織が壊死したのだ。両足義足で階段を上り下りして、毎日の運動にしていた。
「実は、10年ほど前に心筋梗塞をやりまして、以来、勃起不全でした。足を切ったら、また起つようになりました。心臓の負荷が減ったせいでしょうか」
 渡辺は義足を見せ、にやりと歯を剥いた。
 第二次世界大戦のドイツ軍には、ハンス・ルーデルと言う名パイロットがいた。何度も撃墜され、ついに右足を失うが、義足を着けて飛び続けた。が、対するイギリスには両足が義足の猛者がいた。ダグラス・バーダーは戦争前に事故で両足の膝から下を失うが、義足を着けてバトル・オブ・ブリテンに戦闘機乗りとして参戦した。
「いらっしゃいませ」
 奥から娘が出て来た。石黒は誰かと首を傾げた、見覚えが無い顔だ。
「佐智です。あれ以来、すっかり真面目になって、大学の成績もトップに帰りました」
 化粧してないので、あの時の佐智とは別人のよう。
「今の方が、絶対にきれいだよ、うん」
 石黒がほめると、ぐいと佐智は顔を寄せて来た。
「誤解しないでね、石黒さん。あの時まで、あたしは処女だったのよ」
「はい」
 よけいな言葉はいらない。ただ、一度だけ肯いた。
「図書館へ行ってきます」
 佐智はノートをかかえ、出かけて行った。見送る渡辺の顔がうれしそうだ。
「もう一つ、山崎さんは三枝の清楚と言う仮面を連れ去ってしまいました。とんでもない淫乱で変態な本性が出て来ました。ほら、石黒さんと再会して、お尻のあたりが疼いているようです」
 台所の三枝が、くねと身をよじった。
「わたしも三枝の相手ができるようになりましたが、なにぶん、一人では相手しきれなくて。せっかく来たのですから、今日は石黒さんに手伝ってもらいましょう」
「手伝う?」
 三枝が寝室のドアを開けて誘う。
「遠慮はいりませんよ。わたしたちは兄弟も同然です」
 渡辺にも促され、石黒は寝室へ入った。きれいに整頓された部屋と家具、マリアと三枝の主婦力の差が見えた。
 ベッドに腰掛けると、香水が鼻をくすぐる。人によっては、エッチな気分になるかもしれない。
 三枝が石黒の前に跪いた。テキパキとズボンの前を開き、パンツからチンチンとキンタマを取り出す。
「お久しぶりです」
 三枝はチンチンにあいさつ。と、素早く、その口にチンチンが含まれていた。
 背筋に電気が走った。脳みそが吸われているような感覚、目の前が暗くなる。手を三枝の頭に置き、なんとか体を支えた。
 どっどどっ、下腹が脈動に揺れた。息が詰まった。
 渡辺がベッド脇の籐のイスに腰掛け、にやにやして見守っている。
「三枝は、これが上手いんです。こんな芸があったとは、妻に惚れ直しています。世間に自慢する芸ではありませんが、石黒さんは特別だ」
 射精が終わった。石黒はベッドに大の字、チンチンは放りだしたままだ。
「ごちそうさまでした」
 三枝は口をゆすぎ、服を脱ぎ始めた。
「石黒さんは、前と後ろ、どちらがお好き?」
「いえ、わたしは・・・ごくノーマルでして」
 石黒は意味が分からず、適当に答えた。上になるか、下になるか、くらいしか体位は知らない。
 ふふ、笑みを浮かべ、三枝は石黒を裸にした。
 ちゅうう、また絶品のフェラでチンチンを攻められた。石黒は抵抗できずに勃起した。
 三枝が股の密林の毛を誇るように跨がって来た。手を添え、石黒のチンチンを股間に導く。腰を下ろすと、ぬるりと入った。
 はっはっはっ、騎上位で髪を振り乱し、乳を揺らした。
 十年間、夫の病気で禁欲生活を余儀なくされた。あの事件で堰が切れた。隠された欲情に火が着いた。
「最近は、わたしを前に入れて、後ろにこんなのを入れて楽しむんです」
 渡辺がグリーンのバイブレーターを取り出した。石黒のチンチンより大物だ。
「でも、今は石黒さんが入ってるし、わたしが直接、後ろに入りましょう」
 渡辺が服を脱いだ。その股間に、黒い物が天を突くように反り返っていた。あの日、三枝の尻に刺さっていた大物のキュウリと同じ大きさ。
 ギギッ、義足を鳴らし、渡辺が三枝の尻に寄る。
 ぎゅうう、膣の入り口の締めがきつくなった。肉壁の向こう側に、別の固い物が入って来た。
 あっあああっ、三枝が声を上げた。
「あたし・・・変態なの。1本じゃ足りない、2本が欲しいのよ」
「なあに、一時の気の迷いです。ゆっくり元の感覚を取り戻して、本来の夫婦生活を・・・ううっ」
 石黒の言葉は、こんな状況では説得力にとぼしかった。
 ぱんぱん、渡辺は腰を三枝の尻にたたき付ける。こちらも、十年ぶりに思い出した劣情のゆえだ。
 三人の声が重なった。

 夕暮れの歩道橋、マリアは流れる車をながめていた。
 また、企画は通らなかった。自信は打ち砕かれた。
 欄干に身をあずけ、尻を突き出して通路を半分ふさぐ姿勢。誰かにバックから犯されても、まっいいか、と納得しそうな気分だ。
 時折、風も無いのに橋は揺れた。大型トラックが通過すると、特に揺れは大きい。排ガスの臭いも濃くなる。
 ライトを点けたクルマが多くなった。街灯とネオンサインが道路を飾る。
「きみの名は・・・と、尋ねる人・・・あり・・・」
 少し歌い、違うと頭を振った。あの映画で、橋の上の出会いがドラマチックだったのは、橋の両岸が焼け野原で廃墟だったから。
 橋の下を流れるライトは、ジングルベルの楽譜の音符のよう。見ていると、頭の中で音楽が響いてきた。
 別の閃きが来た。
「この歩道橋から飛んで、金持ちの車に落っこちて・・・実は、すごい変態の親父で・・・」
 これはエロだ。ふふふっ、マリアは口を歪めて含み笑い。
「ただの変態じゃなく、インポの変態なら・・・うん、なんでもあり、だよね」
 がははっ、つい笑いが声に出た。
「落ちる女も普通じゃなくて・・・いっそ、全裸のスッポンポンなら・・・」
 これだ、マリアは踊り出した。元ストリッパーらしい発想、素晴らしいと自画自賛だ。
 気分はハイだ。手に下げていた薬を袋ごとふちまけた。
 ビデオにするのが待ちきれない、マリアは踊り、シャツを脱いだ。
 一枚、また一枚、服を脱いで橋の下へ投げた。
 視野の端で、誰かが携帯を使ってる。警官のような人が上って来た。
 マリアは欄干に上がり、ブラを外した。手で回して投げ捨てた。
 腰に手をやり、最後の一枚を取った。
 警官が駆け寄る。
 マリアは白いパンツを振り、飛んだ。流れる光の中へダイブした。
 が、クルマの上には落ちなかった。アスファルトの路面にダイレクトだった。
 衝撃は感じた。痛みは・・・記憶に残らなかった。


6.死にそこない


 応急の救命処置は続いていた。
 石黒が病院に着くと、マリアは頭が無かった。正しくは、全てが箱の中に入っていた。
 顔面を粉砕骨折したので、顔の左右に板を置き、骨が外へ崩れないようにしていた。鼻が潰れたから、気管切開で呼吸を確保した。箱が黒ければ、手術中のダース・ベーダーだ。
 同居人として、石黒は何枚もの同意書にサインした。医者でもない身では、出来る事はこれだけだ。
 警察の人が来た。
「こうも自殺を繰り返すようでは、ねえ。通院治療では限界でしょう。きちんとした病院なり、施設に入れた方が良いです。でないと、あなたが潰れますよ」
 助言を越えて、警告が来た。
「はい・・・」
 返答に力は入れられなかった。
 ビニールの無菌カーテンをめくり、マリアの手を握った。弱々しく握り返してきた。
「ばかやろうが・・・付き合いきれねえよ」
 マリアの細い手を振り切り、カーテンの外に出た。
 廊下に出て、長いすに寝た。
 アパートにあるマリアの荷物を、すべて病室に持ち込んで、どこか旅に出たくなった。女の事を考えないで済む場所に行くのだ。
 手術室のドアが開き、ストレッチャーが出て来た。
「次、準備」
 冷静な声が廊下に響く。医師も看護婦もゆっくり歩く、決して急がない。瀕死の患者も、彼らには日常の風景なのだ。

 石黒は病院に泊まっていた。
 夜が明けて来て、近くのコンビニでパンを買った。自動販売機のホットコーヒーと合わせて、廊下で朝食にした。
 どうやって、この状況から逃げるか。一晩、そればかり考えていた。
 警察が言った通り、おれも壊れかけているのか・・・胸に泥が溜まったような気分。紙コップのコーヒーは、いつの間にか冷えていた。
 昼前、石黒は近付く足音に気付いた。
「石黒さん・・・」
 声を聞いて、小島妙子と悟った。
 もう逃げられない・・・石黒は覚悟を決めた。
 集中治療室を指し、妙子を中へ行かせた。と、もう一人いるのに気付いた。
「妹の小島里美です。麻里姉が迷惑かけてすみません」
「いもうと?」
 長いすに並んで座る。里美は肌も浅黒く、精悍な顔と体つき。スポーツマンに見えた。
「似てないしょ、麻里姉とは父親が違うの。麻里姉はロシアンのハーフで、あたしはアフリカンのハーフだから」
「ロシアとアフリカ?」
 妙子は2度結婚したと言っていた。父親の違う娘がいても当然だ。それにしも、ロシアとアフリカなのだ。清楚な和風美人と思っていたが、実は激情派の女だったのか。

 午後、医師から現状の説明があった。石黒も妙子と一緒に聞いた。
 頭部前面、右側頭蓋骨が粉砕骨折。左側頭蓋骨は複雑骨折、下あごが脱臼と複雑骨折。そして、頭部前面皮膚の裂傷が多数。体の方は、不思議に軽傷であった。
 2度の手術で骨を寄せ合わせ、脳が潰れるのを防いでいる。処置は救命を優先して行った。
「すごい生命力です。普通、死んでます」
 医師は言った。誉め言葉のつもりだろう。
「顔が壊れてしまいました。体力の回復を待ち、整形手術をして、生活が可能な顔を作る事になります」
「顔を・・・作る?」
 マリアは飛び降り自殺をした。すでに心が壊れていた。それが顔に出た、と思うしかない。
「どの程度の整形が必要となるかは、回復を待たねば、診断ができません。焦らず、気長に行きましょう」
 医師の言葉は事務的に流れた。
 まだ手術の直後だ。集中治療室から出られる時期も分からない。

 病棟のロビーで、三人は話し合った。
「あたしは今夜、ここに泊まります。石黒さんは、お帰りください。里美ちゃん、あなたも帰っていいわ」
 妙子の提案に、妹は首を振った。
「あたしは石黒さんのとこに泊まる。麻里姉がいた部屋を見てみたいし。明日は、あたしが、ここに泊まるよ」
「交代で泊まりか、それも良いわね。石黒さん、ご迷惑ですか?」
 意見を求められても、石黒は同意するだけ。
「今度の入院は長くなります。明日、色々持って来なければ。女の物は、女が選ぶに限る」
 夕刻、三人はロビーで弁当を一緒に食べた。
 妙子は泊まり、里美は石黒と病院を出た。
 ふんふん、里美は鼻歌で歩く。
「なんか、楽しそうだね」
「都会に来るのは、久しぶりだし。男の人の部屋に行くのも、久しぶり」
 危篤状態の姉を他所に置き、妹は都会見物を満喫していた。
 アパートに着くと、里美は鼻を動かして室内を回った。
「これが、麻里姉と石黒さんの匂い・・・ね」
 ふん、と里美は鼻息をひとつ。マリアのケースを開けた。
 股の割れたパンティー、乳首の出るブラジャーが出て来た。ストリッパーの衣装だ。三個のバッグは、ほとんどが仕事用の衣装。普段着や生活道具はわずかだった。
「疲れた・・・」
 里美はベッドに寝転がる。そして、また鼻を動かした。
「そう言えば、この前、ままんが麻里姉を見舞いに出た時、妙に肌の色艶が良くなって帰って来た。なんでかなあ、と思ってたけど。石黒さんだったのね、相手は」
 ぎくっ、石黒は息が詰まった。さすが姉と妹、勘の鋭さは同等だ。
「何回、したの?」
「1回だけ・・・いや、2回したか、な」
 首を傾げ、里美は身を起こす。
「殺人で前科1犯、ムショ帰りの里美さんを・・・なめたらあかんぜよ!」
「朝までに・・・3回目もしました」
 よし、と里美は肯いた。
「んじゃあ、ノルマは同じ3回ね。朝までがんばろう」
「え、するの?」

 どっどっどっ・・・脈動が頭の芯を揺すった。
 石黒は脱力して里美におおいかぶさる。長い手足が背に回り、爪が肩にくい込んだ。
「男の人は・・・ほんとに久しぶり。ままんの気持ちがわかるなあ」
 母と娘、似たような言い回しだ。
 えい、と里美は膣に力を込めた。ぎゅっ、チンチンを締め上げる。
「まだまだ。ちゃんと種付けしてよね。今の里美は、すっごく妊みたい気分なんだ」
「はらみたい、の?」
 里美は高校を卒業して、すぐに家出した。さっそく男と同棲、妊娠した。できちゃた婚の話しを進め始めると、男が家出した。他の女と浮気したのだ。里美は女の家に押しかけ、男をバットで撲殺した。女は取り逃がした。
 裁判の途中、拘置所で出産した。授乳期が過ぎると、子供は取り上げられ、施設へ入れられた。里美が受けた最も重い罰だった。
 出所後も、母親失格の烙印は消えない。週に1度の面会は許されていた。母親として、まだ仮免中だ。
「一緒にくらせないの、くやしいよ。あんまりくやしいから、石黒さんの種で、もう一匹産んじゃおう、なんてね。こっちは取り上げられないだろう・・・と思うし」
「子供は・・・まずい。わたしは60過ぎのお爺ちゃんだ。子供ができても、成人するまで生きていられるか・・・」
「そっちが心配?」
 ずん、里美が下から腰を突き上げた。
「さすが、麻里姉が惚れた男だね」
 里美の中で、いつの間にかチンチンが復活していた。
 石黒は腰の運動を再開する。動かしながら、自分の死を思った。
 もしも、里美が妊娠して、子供が生まれたら・・・何かで自分が死んでも、体の外で、少なくとも1個の細胞は生き残る。遺伝子の片割れだけは世に残る。
 ずきっ、頭痛がした。昔、高血圧と診断されたのを思い出した。

 翌朝、石黒と里美は手ぶらで病院へ行った。集中治療室には私物が持ち込めないのだ。
 まだマリアは目覚めない。見守る母は呆然としていた。
「反応できないだけで、全部聞いてるかも」
 マリアがストリップで自殺した時の事を、石黒は話した。そうか、と妙子の顔が明るくなった。
「あ、目が開いてる」
 里美が気付いた。
 鉄仮面のような顔をおおうギプス、その左側には目の穴があった。まぶたが開き、眼球が動いている。
「麻里ちゃん、麻里ちゃん」
 手を振って母が呼んだ。
 シューと息がもれる音が強くなった。マリアは喉を切開して呼吸している、声を出せない。
 看護婦が来た。心電計はナースステーションでモニターしている。変化を見て、患者を確認に来たのだ。
 手を握っても、まだ反応は弱々しい。
 最悪の危機は脱した、三人は胸をなで下ろした。
 その日は、里美が病院に泊まりとなった。
 妙子は鼻歌で石黒のアパートに来た。マリアの荷物を片付けて、台所を掃除した。
 ベッドで匂いをかぎ、むっとした目で石黒を見た。
「今朝の里美、妙に肌の色艶が良いと思ったのよ。石黒さん・・・やっぱり、あなたね」
 あの娘にして、この母あり。勘の良さは同等だ。
「何回したの?」
 この目には抵抗できない。石黒は弱々しく返答した。
 翌日の午後、マリアは集中治療室を出た。里美は家に帰った。


7.諸行無常


 マリアの顔面ギプスが取れた。顔は満月のように腫れ上がっていた。
 妙子は涙ぐみながら、手や足をもんだ。運動のかわりだ。
 母が席を外した時、マリアは石黒を手招きした。しゃべれないので、筆談をした。
「ままん はだ いろつや いい  いしさん よろしくね」
 娘の観察眼は衰えてなかった。文章に漢字が入らないのは、目が良く見えてないせいらしい。それでも、母の表情は見逃さない。
 他人を思いやる心があるのは、心の健康な証拠。母を他人に数えてはいけないが。
 まだ一人では歩けない。トイレへ車いすで行った。洗面台の鏡に向かい、変化した自身の顔と対面した。
 病室に帰り、また紙に書いた。
「おいら なまで ケムール キタローやベムに メークなしで でれる」
 テレビの事を書いたと気付くのに、少々かかった。
 救命優先で砕けた頭蓋骨を寄せ合わせた。顔の左右がずれて、目の高さが違うのだ。板で支えたせいで、顔が平面化していた。
「ヤングな すなかけばば しょうたいの ベラ」
 マリアはハイになって書き続けた。テレビ出演の妄想モードに入っていた。
 ポジティブで逞しいと言えるが、このハイテンション状態が一転して自殺になる。それが、マリアの行動パターン。
 昼弁当をとり、石黒は病院内の図書室に行った。
 子供向けの棚から怪獣図鑑を取って開くと、ケムール人のページがあった。左右で目の高さが違う宇宙人だ。
 古代エジプト絵画の手法を取り入れた、と作者のコメントがある。技術的には先祖返りのデザインらしい。
 今のマリアはウルトラマンの宇宙人だって、特殊メーク無しで演じられそうだ。

 マリアが入院して1週間、妙子は家に帰る事にした。
 小島妙子は喫茶店を営んでいる。従業員は娘の里美だけ。生活もあり、いつまでも店を休業する訳にいかない。
「ごめんね。毎週は来れないけど、月に1度は必ず来るから」
 涙声で言い残し、妙子は病院を後にした。
 顔面を整形する手術の準備が始まっていた。新たにレントゲン写真を撮り、骨の状態を確かめる。砕けた骨を金具で固定し、形を整えていく計画だ。今のずんべらほうな顔を、少しでも人間っぽくする。
 実際、固定したところで、その通りに固まらない場合が予想された。皮膚、骨、筋肉は別々の回復形態を持っている。
 その手術は半日以上の時間がかかった・・・
 少し腫れが引きかけていたのが、またしても、顔は満月に腫れた。目の高さは、左右でほぼ揃った。
 怪獣図鑑から似たのを探せば、まだジャミラかザラブ星人ような顔だ。どこまで人間らしい顔にもどるのか、見当もつかなかった。
 
 年が明けた。
 喉の穴が塞がれ、胃瘻も取れた。
 マリアは普通に息をし、普通に食事できるようになった。下あごが動かないので、食事の内容は普通ではないが。
 顔の腫れが引き、ようやく整形手術の結果が見えてきた。
「後天性ジョン・メリックかな・・・」
 マリアは鏡を見て、自分の顔を評した。これ以上は美容整形の分野、桁違いの金が必要な世界だ。
 しゃべれるようになったものの、声質が変わっていた。口や鼻の構造が変わり、共鳴が変化したせいだ。
 左目は、ほぼ視力無し。明暗は分かるらしい。右目には眼底出血があり、視野の中央がボケて見える。難しい状況だ。
 回復は順調、普通なら春に退院できる、と医師は言った。普通なら・・・
 この病院でするのは体の治療だけ。心の治療は、別の専門病院を探す必要があった。
 妙子が見舞いに来た。母を見て、娘の顔が明るくなる。
 今回は病院のパンフレットを持って来た。写真付き、見開きの大きな物だ。
「ここ、昔に、麻里ちゃんが入院した所。建て直して、新しくなってるの。障害者用の施設が付属して、すごく充実してたわ」
「ふーん」
 母の説明に、娘は関心無げなそぶり。石黒は写真の背景に注目した。
「この山は?」
「函館山です。ロープウエイで上ると、街が一望よ。男の人なら、ギターで歌いたくなる風景よね。赤い夕日を背にうけて・・・」
 妙子は娘と同じで歌は得意なよう。
「その麓には、鬼より怖い元新選組副長、にっこり笑って人を斬る・・・土方歳三の胴塚があります」
「どう?」
「首の無い胴だけが戦場で発見されました。敗れて恥をさらすまじ、と部下に命じて、おのれの首級を持ち去らせたのです。今も北海道のどこかで、人知れず眠っています。もしかすると、北海道大学が保存するアイヌ人の頭蓋骨に混じっているかも・・・ロマンですわ」
 身振り手振りで語る妙子。いつ脱ぎ出すか、と石黒は冷や汗をかいた。

 春分の日が過ぎ、太陽が高くなった。
 今日の衣装は、オードリー・ヘップバーンを模したつばの大きな帽子、顔の半分をおおうサングラス。
 マリアは看護婦と医師にあいさつ、石黒に手をとられて退院した。荷物は半分が大量の薬。正面玄関からタクシーに乗った。
「わあ、桜だ」
 道の両側、満開の桜が咲いていた。
 桜並木の坂を下り、蛇崩交差点の近く、アパートの前で降りた。
 目のせいで、マリアは道の段差が苦手。階段も危なっかしい。石黒は目が離せない。
「帰って来た」
 部屋に入り、マリアは帽子とサングラスを取った。ソファに腰掛け、肩と首を回した。
「きれいにしてるね」
「この前、お母さんが来て、掃除してくれた。ついでに、荷物も持って行ったよ」
「あ、それで広いんだ」
 大型のケースが3個無くなれば、部屋の感じも変わる。
 石黒も腰をおろし、マリアに肩をくっつけて座る。温かい、久しぶりの感覚だ。
「さあ、石さん、しよ」
 マリアが誘う。
「しよ・・・て、何を?」
「もちろん、ナニよ。せっかく退院したし、もう体がうずいちゃって」
 マリアは石黒の股ぐらに手をのばした。たちまちズボンの前を開き、パンツの中からチンチンを取り出した。
 ずきっ、情けなくもチンチンは反応していた。
 マリアは唇を寄せ、舌をのばす。吐息が亀頭にかかった。
「う・・・あ・・・できない」
 チンチンに頬ずりしながら、マリアが涙声をもらした。
「石さんの、太過ぎ。口に入らないよお」
 なぜ、と石黒はマリアの顔を見た。あごを脱臼骨折した後遺症で、あご関節の可動範囲が狭くなっていた。
 上の歯と下の歯の間は、指が1本入る程度まで開く。食事には不自由しない開きかた。しかし、チンチンをくわえるには不足だ。
「尺八はできないけど、フルートならできるね」
「おれのは、そんなに長くないだろ。ピッコロ以下のはずだ」
 亀頭の先端、尿道口を舌でなぶりつつ、マリアは顔を曇らせた。チンチンは固く勃起している。
「こうゆう事は、布団の上でしような」
 石黒はマリアを横抱きにして立ち上がる、お姫様だっこの型。ズボンが脱げて落ちた。
 どっ、ベッドにマリアを横たえた。身をくねらせて脱げば、乳首が透けて見えるレースの下着は舞台衣装のひとつ。
「おっ」
 石黒は声を出し、パンティーを下げた。
「生えてる」
 股間に黒い毛の茂みが復活していた。ストリップの舞台で、つるつるに剃毛してから半年が過ぎている。
「長くならないだけで、生えるのは早いものよ」
「子供じゃないし、ある方が自然だよ」
 ロシアの血が混じる白い肌、踊りで鍛えた腰のくびれ、毛の茂みと女の神秘を体現する肉の割れ目。石黒は見入ってしまった。
「なんだ、これは」
 肉のひだの中から、白い液体がにじみ出て来た。指ですくう、おしっこの色ではない。
「早くう」
「はいはい、今行きますよ」
 石黒は上着を脱いで裸になった。マリアの足を抱え上げ、腰を寄せる。亀頭を割れ目に当てると、するりと中に入った。
 さらに腰を進め、チンチン奥へと送る。ぎゅう、と膣が亀頭を締めて来た。
「確か・・・きみには、子供がいたね。高校生だっけか?」
「ん・・・そうだね」
「実は、わたしは・・・」
「何よ?」
「いや、明日にしよう」
 もう腰の奥に高まりが来ていた。遠慮無く、マリアの中に出した。
 石黒はマリアにかぶさる。昔とは違う顔に唇を寄せた。
 ベッドサイドのスツールに手鏡があった。手にして、石黒は自分の顔を映す。マリアの顔も映して見た。
「ブスになってごめんね」
「なんの、このくそ爺いとなら、前よりは釣り合いが取れてる」

 翌、午前5時過ぎ、二人はアパートを出た。タクシーで上野駅へ、新幹線でマリアの故郷を目差す。
 飛行機にしなかったのは、医師の警告があったから。マリアの耳は鼓膜が弱く、激しい気圧の変化に耐えられない、と言われていた。
 マリアを窓側に座らせ、石黒は通路側に座る。
 仙台のアナウンスに、マリアがはしゃいだ。ストリッパーとして何度も来ていた所だ。 
 青森で乗り換え、長いトンネルで海峡を越えた。木古内を過ぎると、急に列車が揺れ始めた。線路の規格が違うせいだ。
 石黒は驚いていたた。若い頃に旅した時は、上野から函館まで丸一昼夜がかりだった。今は半日とかからない。
 函館駅はターミナルだ。上野と同じく、列車ホームは先の無い突き当たりだけ。
 改札を出ると、まだ昼前。妙子が迎えに来てくれていた。
「家は東の温泉街に近い所よ」
 駅前からタクシーに乗った。10分とかからずに着いた。
 クルマから降りる時、石黒はよろけた。
「町は平らだし、道は真っ直ぐだし、ちょっと目が回ったよ」
「渋谷は坂だらけで、曲がりくねった道ばかりだもんね」
 マリアが合いの手を入れてくれた。
 息を整え、顔を上げた。
 軽食&喫茶「いふんけ」は古い民家の1階を改造した店。店名はアイヌ語から取った。
 裏玄関から家の中へ。階段を上げって居間へ行く。古い家だけあって、2階の天井は低い。でも、背の低い女たちには十分な高さ。
 どてっ、マリアは倒れ、ごろごろ床を転がった。
「子供じゃあるまいし、しゃんとなさい」
「はーい」
 母の叱咤に、娘が答えた。
 ポーン、インターホンが鳴った。店番の里美が呼んでいる。
「お客さん、いっぱい。お母さん、お願い」
「今、行きまーす」
 妙子はエプロンをして、階段を降りて行った。石黒とマリア、二人が残された。
 はて、石黒は首をひねる。部屋に男の匂いが無い。
「きみの子は?」
「あ、あっち」
 マリアは奥の部屋を指した。襖を開けると、仏壇があった。幼児の写真が置いてある。
「しげる・・・生まれて8ヶ月で、旦那に蹴られて、内蔵破裂で」
「生きていれば、今は高校生になる・・・と」
 線香を立て、手を合わせた。
「しげる・・・良い名前だ。実は、今日、しげるさんの許しをもらい、君に結婚を申し込もうと思っていた」
「けっこん? やだあ、こんなブスと?」
「すまない。欲しかったのは、息子だ。たいした物持ちではないけど、何がしか、わたしの物を受け継いでくれる男の子が欲しかったんだ」
 石黒はポケットから小箱を出した。今日のために持って来た万年筆だ。
「君と結婚すれば、息子ができる。そう思ってきたけど、夢が破れた」
 万年筆の小箱を仏壇に置き、また手を合わせた。
 やはり、独居老人として終えるのが分相応か。石黒は自身の末路を思った。
 マリアは六十男の丸い背を黙って見ていた。
「お待たせーっ、いふんけ自慢の日替わりランチよ!」
 妙子が両手にトレーを持って上がってきた。イカの唐揚げと豚肉生姜焼きの匂いが部屋に満ちた。
「2時までは、ランチで忙しいから。病院は、その後でね」
 食事をテーブルに並べると、妙子は階段を降りて店にもどる。繁盛しているようだ。

 午後2時過ぎ、里美を店番に残し、病院へ行く。石黒も同行した。
 東京から持って来たカルテ等のデータと薬を渡す。診察は明日から、病棟へ案内された。
「鉄格子とか、もっと物々しいと思ってたけど」
「昔の映画などでは、刑務所の独房まがいの描写がありますね」
 石黒の感想に、看護師が笑って答えた。
 通された病室は、前の病院と変わらない開放的な作り。まだ検査入院の段階だから、患者は自主的に動く事が許されている。
「ね、石さん」
 荷物をロッカーに収めていると、マリアが石黒の袖を引いた。
「ままんと結婚しなよ。年は近いし、お似合いだよ」
「やあねえ、石黒さんに迷惑よ」
 妙子は身をよじり、恥ずかしがった。石黒は笑顔だけを返した。
 病棟からの帰り、通路のガラス戸にガチャリと鍵がかけられた。ここが普通の病院とは違う所だ。
 ガラス越しに手を振り、明日の見舞いを約束した。


8.人生の欠片


 目を覚ますと、まだ5時前だった。カーテンの外は明るくなっている。
 石黒はそっと起きだし、散歩に出た。5分と歩かず、海岸に出た。波も風も穏やかな朝。
 函館の東海岸は太平洋に面している。水平線が朝日を反射してまぶしい。
 各地の戦いに敗れ、土方歳三は最期の地に上陸した。腹に銃弾を受けて死を覚悟した時、関ヶ原の戦いで敗れた大谷吉継の故事に倣い、自分の首級を隠させた。
 おれは最期に臨んで、どんな故事に倣うべきか・・・石黒は砂浜を歩きながら思った。
 もどると、喫茶いふんけは開いていた。まだ午前7時だ。
「お早うございます」
 里美の声が出迎えた。
「営業は9時から、と看板にあるよ」
「だって、来ちゃうから。追い返すわけにいかないし」
 老婆が端の席にいた。年は80過ぎか、コーヒーカップを持つ手が震えている。
 ついでと、石黒もモーニングセットを頼んだ。
 9時前、家族が迎えに来て、老婆は笑顔で帰った。
 二階にあがり、仏壇の前でゴロリと横になる。体から生気が抜けて行くのが分かった。
 自殺を繰り返す放蕩娘を故郷に帰した、親元に送り届けた。役割が終わった。次にやるべき事が無い。
 午後、今日は里美が見舞いに行く。石黒も同行した。
 きゃっきゃと盛り上がる姉妹を、横で呆然と見て過ごした。
 夜、仏壇の前で、一人寝る。
 寝ている間に、心臓麻痺か脳卒中で死ぬ自分を想像した。高血圧だし、条件はそろっている。ここでなら、女たちに看取ってもらえる。
 死ぬならば、彼女らにかかる迷惑を最小にせねば。石黒は灯りを点けて、ノートと万年筆を出した。遺書を残そうと思った。
 しかし、いざ書こうとしても、文章が思い浮かばない。むう、ため息が出た。
 すす、襖が開いた。入って来たのは里美だ。
「石さん、何してんの?」
「いや、何もしてない」
 石黒はノートをたたんだ。遺書を書いてた、なんて言えるはずも無い。
 里美が布団にもぐり込んで来た。
「おいおい、子供じゃあるまいに、何をする気だい」
「もち、ナニをするの。知らない仲じゃないし、いいべさ」
 細い手がパンツの中に忍び込んでいた。ぎゅうう、柔らかいチンチンを握って揉む。
「石さん、帰るなんて言わずに、ここに住みなよ。お家賃は安くするし、賄いも付けるし、ついでに・・・夜だって、してあげるし」
 里美が唇を首筋に寄せた。女の匂いが、鼻から口から体にしみ込んで来る。
 石黒は口を一文字にして耐えようとした。しかし、思惑に反して、チンチンが反応してしまった。
「いやだ、なんて言わせないから」
 里美は体を反転して、カチカチに勃起したチンチンを口に含んだ。石黒の頭を両足ではさむ、下着は着けてない。生のおまんこが顔に乗った。
 あうっ、石黒の下半身に電気が走る。たまらず、里美の口に出していた。
 どくどく、射精が体を揺する。
 揺れるまま、おまんこに息を吹きかけ、鼻で割れ目をくすぐった。さらに強い女の香が湧いて来る。
「へんな声がすると思ったら」
 妙子の声だ。部屋に入って来ていた。
「ただ今、交渉中よ。ここに住んで、って」
 石黒の顔に里美の股が乗っていた。何かを答えられる状態ではない。
「ああ、石黒さん、わたしからもお願いします。あなたが急にいなくなったら、麻里ちゃんも寂しいだろうし、わたしも寂しいわ」
 女二人の手がチンチンにかかった。脱力しかけたのに、また固さが増してきた。
 ずしっ、石黒の下半身に重しがかかる。ぬるるっ、チンチンが肉に絞められた。妙子が騎上位で乗ってきた。
 かああっ、顔が熱くなった。頭の芯まで熱が来た。
 何か忘れてるような気がした。でも、考える力が熱で溶けていく。
 死ぬ・・・2人がかりでやられては・・・今日とは限らないが。いつか、遠くない日、確実に。
 年は60過ぎてるし、頭は薄いし腹は出てる。ついでに高血圧だ。
 昼間、病院で聞いていた。マリアは検査が終われば、施設の方へ行く。症状が安定していれば、週に1度は帰宅できるだろう、と。
 そうなれば、週に1度は3人がかりだ。絶対に死ぬ・・・
 石黒は体から力を抜いた、チンチンだけは抜きようもないが。女たちのやりように身をまかせた。
 これが俺の末期か・・・男としては、良い死に方かもしれない。



< おわり >




後書き
卯月妙子著「人間仮免中」イーストブレス刊
本作は、この著作より多くのヒントをもらっています。

タイトルの「スイシーダ」はメキシコプロレスの技、トペ・スイシーダから。
ミル・マスカラスの頃はフライング・ボディ・アタックなどと呼ばれてました。藤波辰巳がドラゴン・ロケットと呼んで売り出して、ダイビング・アタックなどと言われるようになった。
タイガーマスクの時代になって、メキシコ流にブランチャ・スイシーダとかトペ・スイシーダと言われるようになりました。
技の呼称にも歴史有りです。

OOTAU1
2015.10.12